鉄道 (平井喜久松,岩波書店,1936年 第1刷,1949年 第7刷) > 第二編 停車場 第五章 貨物停車場

鉄道』は平井喜久松さんの著書で,岩波書店から1936年(昭和11年)に第1刷が,1949年(昭和24年)に第7刷が発行されました。
このページには「第二編 停車場 第五章 貨物停車場」を収録。

目次


第二編 停車場 (p. 111)

第五章 貨物停車場 (p. 163)

貨物のみを取扱う停車場を貨物停車場(freights or goods station, Güterbahnhof)と言う。一般貨物取扱上必要なる設備については既に第二章§3(127頁)において述べたから,ここには特に貨物のみを取扱う停車場においてのみ必要とする事柄について述べよう*1

§1. 貨物停車場設計基礎 (p. 164)

貨物のみを取扱う貨物停車場を必要とする場合は,相当生産力および消費力旺盛なる主要都市もしくは特殊生産物の輸送を必要とする場所に限られるので,その設計においては中間小停車場の場合と異なり,これに集る貨物の種類およびその趨勢を充分に調査し,かつ将来の発達を洞察して設計を進めねばならない*2

§2. 貨物停車場の線路 (p. 164)

貨物停車場における線路はその使用目的により次の如く区別している。
  1. 列車著発線*3
  2. 待避線
  3. 入換線
  4. 組立線
  5. 機関車回線
  6. 駅別仕分線
  7. 方向別仕分線
  8. 貨物ホーム線
  9. 同上以外の積卸線
  10. 積卸後貨車回線
  11. 緩急車線
  12. 自駅著発*4貨車駐留線
  13. 仕分未済貨車留置線
  14. 計重台線
  15. 給炭水線
  16. 修繕線
  17. 生獣取卸線および洗浄線
  18. 鮮魚および野菜取卸線
  19. 省用品積卸線
以上諸線路は駅の大小,貨物取扱状況によって取捨すべきは勿論である*5

imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。

§3. 都市における貨物取扱施設 (p. 167)

都市における貨物取扱の問題は年々複雑化し,難しい問題となってきている。その設備が不充分なるがために貨物の搬出が遅滞する場合,鉄道の貨物は自動車の如き他の輸送機関に転化する原因となるのであるから,鉄道としても最も迅速に且つ経済的に取扱うことが必要であり,そのための施設を必要とするのである。目下用いられている方法は次の如くである*6

1. 貨物の居宅集配作業(store-door freight service)(p. 167)

宅扱貨物に対しては鉄道によりて輸送さるるものを鉄道自ら又は鉄道と協定せる運送会社の手により発送人の居所より集め,到著*7後荷受人の居所まで配達する方法であって,この作業の利点は次の如くである*8
(a)駅荷扱場において受託時における混雑を避け得る事。
(b)作業敏活なるため,貨物駅の設備を小となして可なる事。
(c)貨車の使用率を増加する事。
(d)到著*9貨物の引取猶予時間制度を廃止し得る事。

2. 貨物自動車による小口扱貨物の運搬作業(motor car transfer service)(p. 167)

小口扱貨物の運搬作業を貨物自動車による方法で,現に東京—大阪間において実施している。これは市内各駅間および営業所と駅間とを貨物自動車により輸送するものである*10

3. 特別容器式運搬方法(container-car-transfer service)(p. 168)

この方法は荷主のために特別の容函(container)を作り,荷を入れた時,これを貨物自動車の構造をかえた台車(chassis)によって駅に運び,直ちに貨車に積んで輸送する方法である。container を用うる運搬方法の利点は次の如くである*11
(a)駅における貨物の積込取卸に費される時間を節約し得。
(b)相互輸送中に生ずる貨物事故を減少することと,またその包装を簡便にし得ること。
(c)貨物ホームの面積を節約し得。
(d)中継用特殊貨車の使用を廃止することを得。

§4. 貨車停車場の種類 (p. 168)

貨車停車場には次の如き種類がある。
(A)構造上より見たる分類*12
  1. 単層式貨物停車場(one level freight station)。汐留の如し(第188図)。
  2. 2層式貨物停車場(two level freight station)。秋葉原の如し。
  3. 多層式貨物停車場(high-level freight station)。
  4. 臨港貨物停車場(water front terminals)。若松,室蘭等の如し。

(B)作業上より見たる分類*13
  1. 発送貨物停車場(outbound freight station)
  2. 到著*14貨物停車場(inland freight station)
  3. 中継貨物停車場(transfer freight station)
  4. 総合貨物停車場(combined freight station)

§5. 単層式貨物停車場 (p. 169)

貨物通路と貨車収容線とが略同一平面に設けられた貨物停車場であって,従来の貨物停車場はほとんど総てこの形式である(第190図)。
貨物停車場の主体となるものは貨物収容線,貨物ホームおよび貨物通路である。これ等は取扱数量および貨物の種類によって各々施設を異にする。即ち*15
  1. 一般貨物においては積込取卸に貨物ホームを必要とするが,荒荷貨物には卸場は地平に,積込場は高台とする。
  2. 列車到著*16後直ちに引取を要する貨物には狭き荷卸場および上家にて可。
  3. 濡損を厭(いと)わないものは上家を要しないが,しからざるものは上家を必要とする。

貨物設備を設計する場合の標準
貨物設備を設計する場合の標準は次の如くである。
  1. 発著*17貨物を積置き得る単位面積当たりトン数(第二章130頁参照)。
  2. 発著貨物を積込前または取卸後,構内に留置を許容すべき時間。
    • 貸切扱:発送前 30時間,到著*18後 30時間。
    • 小口扱:発送前 10時間,到著後 10時間。
  3. 貨物ホームの幅(9m以上)。
  4. 貨車の長さ(8m)。
  5. 貨車積載量(15トン,12トン,10トン,8トン)。
  6. ホーム擁壁面と留置貨物線間の最短距離。
    • 普通線路側 1.2m,通路側 0.6m
  7. 留置貨物間の通路(留置貨物7.2m毎に90cm)。
  8. 貨物積卸線の貨車入換回数1日3.5回。
  9. 貨車仕訳線は出発する2箇列車分の貨車を留置し得ること。
  10. 貨車入換上適当なる留置車数はその線の有効長を8mにて除せるものの60%である。
  11. 貨物ホーム以外に積卸すべき貨物積載車の積卸線路上の留置時間を6時間とする。
  12. 発著*19貨車平均滞留時間8時間,中継貨車滞留時間を5時間とする。
以上の標準により積卸場の面積を算出することができるが,これは大体の標準を示したもので,各駅にはそれぞれ特殊の事情を有するものであるから,設計に当たってはその事を考慮に入れねばならぬことは勿論である*20

§6. 2層式貨物停車場 (p. 171)

地価の高い都市においては地積をできるだけ節約し,取扱貨物数量を多くするため,貨物停車場を2層式とすることがある。しかし2層式は構造に多額の工費を要し,また貨物を2層間に昇降せしむる費用を要するから,単層,2層何れを可とするかは直ちに決定することは困難である。この比較には次の如き点を考慮せねばならない*21
  1. 建設すべき場所の地形的状態
  2. 地価
  3. 工事費
  4. 作業費
  5. 現在ならびに将来における作業状態
  6. 推定取扱数量
  7. 都市の産業状態

2層式貨物停車場にも発送,到著*22,総合の3種があり,何れも次の2つの形式がある。
  1. 上層を車道および荷物ホーム,下層を貨車収容線および積卸用ホームとせるもの。
  2. 上層を軌道ならびに積卸ホームとし,下層に車道または荷物ホームを設けるもの(秋葉原駅はこの例である。第191図)。
2層間の連絡には昇降機が最も広く用いられるが,この外 ramp,chute,conveyor,escalator 等も用いられる(第153図参照)*23

imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。

§7. 多層式貨物停車場 (p. 172)

貨物駅を2層以上の高層式とし,1層および2層以外は総て貨物倉庫としたものを多層式貨物停車場と言う。
この式のものは欧米には多くあるが,我国にはない*24

§8. 臨港貨物停車場 (p. 172)

臨港貨物停車場は船舶運輸と鉄道運輸との連絡箇所である。この停車場の要素は埠頭,上家,倉庫および臨港鉄道である。而(しか)してこの臨港鉄道の側線設備は埠頭,上家および倉庫等の臨港設備の大きさにより種々異なるけれども一般に次の如き部分から成立つ。
  1. 到著*25線群
  2. 出発線群
  3. 貨車留置線群
  4. 貨物積卸線群
  5. 誘導および連絡線
  6. 荒荷積卸線
  7. 機関車庫線,修繕線,炭水線等
第192図に示すは簡単ではあるが最も整った臨港貨物停車場の1例である。

imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。

1. 埠頭 (p. 173)

貨物の荷役,船客の乗降等のために用いられる接岸の構造物を埠頭(wharf)と言い,次の如きものがある*26
  • 物揚場(lighter wharf):艀船(lighter)の接岸荷役をなす水深浅き所で,普通物揚場の上面は斜面とする。
  • 岸壁(quay wall):大型船の接岸荷役をなす水深比較的深き所で,構造は直立の擁壁形をなすものである。
  • 桟橋(landing pier):岸壁と同様大型船の接岸荷役をなす所で,構造が恰(あたか)も橋梁の如き構材の組合せからなる。

埠頭の様式
埠頭の様式には泊渠埠頭,平行埠頭,突堤埠頭の3種がある(第194図)。
埠頭の大きさ及び各様式の選定は地勢,取扱数量および貨物の種類等によって異なるが,埠頭の長さは大体岸壁および桟橋の長さ1mに付年間取扱数量約800トン,物揚場では300トン位のものである。詳細は鈴木博士著『港彎』を参照されたい*27

2. 上家,倉庫 (p. 174)

上家は主として貨物の仕分,包装替,仮置等をなす建物であり,倉庫は貨物を貯蔵する目的の建物である。
上家の幅員は約18〜36mであるが,大体船舶の大きさによって異なる(第195図)。
上家の長さは係留船舶の長さと略同様とする。
倉庫には普通倉庫(floored warehouse)とサイロ倉庫(silo warehouse)との2種ある。前者は各層共床にて横に仕切られた普通の建物であるが,後者は多数の縦孔が集合してできたもので,主として穀物等の散荷を入れる*28

imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。

3. 埠頭における船舶荷役方法 (p. 175)

普通用いらるるものは次の4種である*29
  1. 船舶の tackle を用いて積卸をなす方法(第196,197図)。
  2. 船舶の tackle と埠頭上の cargo mast を用いて積卸をなす方法(第198図)。
  3. 埠頭上のクレーンを用いて積卸をなす方法(第199図)。
  4. conveyor を用いて積卸をなす方法(散荷取扱)(第153図


imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。

4. 側線設備 (p. 176)

埠頭の様式によって臨港貨物停車場の側線設備は異なる。これを図示すれば第200図の如くである*30





5. 石炭荷役 (p. 177)

船舶に積卸す石炭には(1)商品として大量に積卸する cargo coal と,(2)船舶自身の燃料として積込む bunker coal との2種がある*31

船舶焚料炭(bunker coal)の積込方法には(1)人力,(2)機力,(3)人力機力混用の区別がある。普通トランスポーター等で貯炭場の石炭を艀船に積込み,船舶の舷側まで運び,人力にて積込む*32

貨物炭(cargo coal)の船積装置を大別すると次の如くである*33
(1)高架桟橋による重力式設備(第201図)
海岸に沿い,または海中に突出せる高架桟橋を造り,炭車を桟橋上に送り,炭車の底開き装置によりポケットおよびシュートを通して石炭を船積するもの(例:北海道小樽港)


(2)トランスポーター(第202図)
貯炭場に貯炭し,あるいは船積するもの(例:北海道室蘭港)


(3)炭車傾斜機(tipper)(第203図)


(4)ホイスト(第204図,例:若松)


(5)石炭積込起重機(第204,205図)
炭車を直接吊上げるものと特殊の載炭函によるものとあり(例:前者 若松,後者 戸畑)


(6)カーダンパー(第206図および第207図)
炭車を垂直に扛上し,半回転して石炭をシュートにより船積するものと,炭車をその位置で回転してシュートにより石炭を船積するか,またはベルト・コンベヤーに供給するものとの2種ある(例:後者 室蘭)。


imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
(7)ベルト・コンベヤー
石炭船積にベルト・コンベヤーを用うる事が最近長足の進歩を示している。我国では室蘭および大牟田に設備せられている。この作業を簡単に説明すれば(第207図),
(i)盈車線*34の石炭車は勾配線をミュールの麓まで走り下る。
(ii)これをミュールによりカーダンパーの床上に押し上げる。
(iii)カーダンパーにて石炭車を回転して石炭をホッパーに移す。
(iv)ホッパーからフィーダーによりベルト・コンベヤーに石炭を移す。
(v)傾斜ベルト・コンベヤーより水平ベルト・コンベヤーを通り,所要の場所でトリッパーにより石炭積込機(ローダー)のベルトに移す。
(vi)石炭積込機のベルトによりその尖端のシュートを通り船倉に積込む。

石炭揚陸設備は普通トランスポーターを用うる。船積と全く逆の作用をするものである*35

参考文献

(著者・編者の五十音順)

書籍
  • 平井喜久松『鉄道』岩波書店,1936年5月15日 第1刷発行,1949年7月15日 第7刷発行

辞典
  • 石井忠久,他『福武漢和辞典』福武書店,1991年11月1日 発行,初版
  • 岩波書店『広辞苑』〈シャープ電子辞書 PW-9600 収録〉岩波書店,1998-2001年,第5版

(書名の五十音順)



関連ブログ

#bf

コメント

名前:
コメント:

すべてのコメントを見る

メール

名前
メールアドレス
内容

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。



更新日:2010年12月10日

最終更新:2010年12月10日 07:39
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。

*1 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 163,164

*2 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 164

*3 ) 原文ママ

*4 ) 原文ママ

*5 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 164

*6 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. p167

*7 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*8 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 167

*9 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*10 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 167

*11 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 168

*12 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 168,169

*13 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 169

*14 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*15 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 169

*16 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*17 ) 原文ママ

*18 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*19 ) 原文ママ

*20 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 170,171

*21 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 171

*22 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*23 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 172

*24 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 172

*25 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*26 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 173,174

*27 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 174

*28 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 174,175

*29 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 175,176

*30 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 176,177

*31 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 177

*32 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 177

*33 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 177-182

*34 ) 【盈】〔エイ,ヨウ〕〔みたす,みちる〕

*35 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 182