『
鉄道』は
平井喜久松さんの著書で,
岩波書店から1936年(昭和11年)に第1刷が,1949年(昭和24年)に第7刷が発行されました。
このページには「第二編 停車場 第三章 旅客停車場」を収録。
目次
第二編 停車場 (p. 111)
第三章 旅客停車場 (p. 144)
§1. 総説 (p. 144)
普通運輸量があまり大きくない場合には旅客および貨物を同一駅で取扱うを常例とする。しかしながら大都市等で運輸量が多く双方を1箇所で扱うことが却(かえ)って相互の作業の障害となるような場合には貨物停車場と旅客停車場とを分離する方が得策である。また客車の収容線,貨車の入換線等の如き設備は広大なる地積を要する故,郊外の比較的地価の安い場所に設置した方が得策である場合もある。近来大都市附近にこの種の客車操車場,貨車操車場の設置せらるる所以(ゆえん)である。
東京駅,上野駅,大阪駅の如きは旅客停車場で,汐留駅,秋葉原駅,梅田駅の如きは貨車停車場である。また尾久(田端附近)宮原(大阪附近)は客車操車場で,新鶴見,品川,田端,吹田は貨車操車場である。
§2. 旅客停車場の作業 (p. 144)
旅客停車場(Passenger station, Personenbahnhof)の作業は列車の発著,旅客の乗降,手小荷物の取扱ならびに郵便物,新聞雑誌等の積卸等を行うものであって,これ等に必要なる設備即ち前章において述べたる本屋,ホーム等の諸設備は勿論,大停車場では電信,電話の設備,案内所,洗面所,売店,食堂等の営業も必要となる。なお以上のほか駅作業として関係事務室,構内列車取扱上の設備,通信関係設備等を必要とする。それ等の作業場所の配置は
第135〜139図および第165〜168図の通りである。
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§3. 中間旅客停車場 (p. 149)
中間駅における旅客扱設備としては出札室,手小荷物室,駅長室,待合室,改札口等が本の屋全部を占め(第135図参照),設計および作業は至極簡単である。なお旅客が列車に乗降するためにホームを必要とする。
- 対向式ホーム(separate platform)を有するもの
- 島式ホーム(island platform)を有するもの
- 分離式ホーム:急行通過列車等と地方列車発著線と分離せるもの
この内分離式は一方向に対してホーム2面を有し,前2者に較べ取扱量を異にする故,これを除き対向式,島式の2者につき優劣を比較して見ると第26表の如くである。
第26表 |
対向式 |
島式 |
用地ならびに建設費大 |
用地ならびに建設費小 |
線路は直線 |
線路に曲線が入る |
運転上見透し良好 |
見透し不良 |
拡張容易 |
拡張困難 |
上下線同時発著の場合ホームが混雑せず |
混雑す |
本屋側の乗降客は線路を横断することなし |
必ず線路を横断す |
監視営業上不利 |
有利 |
列車回数多きとき不利 |
有利 |
即ち両者各利害得失あるのであるから中間旅客駅は乗降人員,列車回数等を考慮し,ホームの形式ならびに配線を決定すべきである。特に配線においては対向分岐器を可及的避くべきである。
本屋の位置
本屋の位置には次の4つの場合がある(第170図)。
- 主本屋を線路の側方で而(し)かも町側に置く。
- 出札所および手小荷物発送に必要なる建物を線路の側方に設け,更に待合室および従事員詰所は線路の間に独立建物とする。
- 本屋を線路の中間に設ける。
- 本屋を高架線路の下に設けるか,あるいは線路の上に跨って設ける。これは旅客の通路が短くてすむ利点がある。
一般に (1) および (4) を採用し,ホーム,道路,広場等の関係を考慮して定むべきである。
§4. 連絡旅客停車場 (p. 151)
2つ以上の線路が1箇所において連絡する場合の停車場を連絡停車場(junction station, Trennungsbahnhof)と言う。これの設計に当たり考慮すべき事柄は次の如くである。
- 主要運輸方向に連絡すべきでる。例えば第171図に示す如くS からW への旅客が多き場合は(a)図の如く連絡し,S からO への旅客が多い場合(b)図の如く接続する。
- 異った管理の鉄道の場合は停車場を互いに接近せしめ,できるならば完全なる連絡が望ましい,ただ本線の平面交差は絶対に避くべきである。
- 乗換旅客はできるだけホームを変更せず同一ホームで乗換できること。
- 各線各々到著線を有し,列車は連動装置により安全に同時進入をなし得ること(第172図)。
- 車輛の入換によって列車の進入出発を妨害せざること。
- 配線は線路別運転(第173図 a)または方向別運転(第173図 b)の何れかによることができるが,方向別運転を適当に用うることにより乗換を便にすることができる。
- 接続分岐器は到著列車が到著前に通らねばならないような位置に置く事を避けねばならぬ。また分岐器はできるだけ大なる半径を用うるべきである。一般に到著列車は直線で進入し,分岐で出発することとが望ましき事である。
- 第174図における新宿駅の如く方向変化のない乗換の場合方向別運転を適当とし,折返し乗換の場合(代々木駅の如く)は一般に中間ホームと外側ホームとを有する線路別運転が有利である。
- 幹線に支線が接続せる場合は一般に支線の旅客列車線は行止りとするか,幹線の第2本線に安全側線を附して結合する。
- 本屋の位置は線路の一方側に設けるのが合理的である。
なお詳細なる研究は Cauer: Personenbahnhöfe, 2 Aufl。
§5. 交叉旅客停車場 (p. 153)
2つの鉄道が交差せる箇所に設ける連絡停車場を特に交差停車場(crossing station, Kreuzungsbahnhof)と言う。
例えば鹿児島本線と筑豊本線と交差せる折尾駅(第175図)および東京—上野間高架上を総武線が乗越せる秋葉原駅の如く純然たる交差停車場で立体交差であるときは flying junction とも言う。また山手線と中央線と交差せる代々木および新宿の両駅の如きも交差停車場の1種である(第174図参照)。
交差停車場においては一般に線路別運転より方向別運転の方が遥かに有利である。簡単な停車場で平面交差の場合は2つの進入列車の交差が省かれるから方向別運転が最も都合よき配線となる。
本屋は連絡停車場の場合と同様に一方側に設けるのが有利である。その他連絡停車場と同様の考慮を払うべきである。
§6. 接触旅客停車場 (p. 155)
接触旅客停車場(touch station, Berührungsbahnhof)は交差停車場と異なり2つの鉄道が相接近せる所に設ける停車場である。
接触停車場もまた連絡停車場と同様の原理が大切であり,旅客の流れ及び運転の状態を考慮し,相互間の乗換数夥(おびただ)しく運転回数頻繁なる時は立体交差による方向別を可とす。而(しか)して何れの場合にも2本の島式ホームによる配置を便とする(第178図)。
東海道本線と京浜電鉄線と接触せる横浜駅は接触停車場の一例である(
第168図参照)。
§7. 旅客終端停車場 (p. 155)
旅客列車運転上終端駅に位する停車場を
旅客終端停車場(passenger terminal station, Endbahnhof, Kopfbahnhof)と言う。旅客中間駅の設計は割合に簡単であるが終端駅は甚(はなは)だ複雑である。就中大都市における旅客運輸上の終端となるべき停車場附近は一種の都心の如き形態を備うるものであるから,単に停車場における列車取扱のみならず都心に似つかわしい各種の施設を設け,一般都市の交通を便にする用意を必要とする。
1. 配線 (p.156)
列車の終端となる場合の停車場形式は次の4つになる。
(a)
頭端式の終端停車場(例:下関駅,門司駅,青森駅,第184図)
(b)通過式の終端停車場(例:東京駅,大阪駅,
第165図)
(c)通過運輸のある頭端式停車場(例:今日はあまりなし。明治30年頃の横浜駅)
(d)(a)と(b)と併用せる終端停車場(例:上野駅,
第166図 両 図駅)
(a)
頭端式の終端停車場
頭端式の終端停車場は次の如き長所短所を有する。即ち運輸上からは列車の出入に交差を生じ,従って危険を伴い,また機関車の転向に困難を感ずる事等がその短所である。しかしながら一方長所としては見透し良好にして旅客が列車に近づくに地下道または跨線橋等を設くる事を要しない事である。この種の停車場としては門司,下関,青森,湊町等がこの適例である。頭端式停車場の配線は第179図の如きものがある。この図の(a)は極めて簡単なる場合。(b)は列車回数大なる場合。(c)は2つ以上の本線が頭端式停車場に線路別運転にて導かるる場合。(d)は方向別運転によって導かれる場合を示す。頭端式終端停車場においても連絡停車場の場合と同様に立体交差を行って方向別運転をなせば運転運輸上大なる利益がある。
(b)
通過式の終端停車場
通過式の終端停車場は東京,大阪,神戸等がその例であって,中間停車場の配線と同様であるが,ただ急行列車,地方列車,始発列車,終著列車等種々の列車に備うるためホーム線を数多く要することが特異である(第
165,167,180図)。
(c)
通過運輸のある頭端式停車場
通過運輸のある頭端式停車場(頭端式の中間停車場)は極小部分の列車に対してのみ終端であり,他の大部分の列車に対しては中間停車場であるが,配線が通過式でなくて頭端式に接合せられたものであ。
列車回数の少ない場合は2本のホーム線を有する第181図の如き配線で充分であるが,頻繁なる場合はホーム線を増加する必要がある(第182図)。何れにしても渡り線の運転が頻繁で危険であるから平面交差を避け立体交差となすべきである。この際乗越の数を最小に制限することは勿論である。
(d)
頭端式と通過式と併用せる終端停車場
頭端式と通過式と併用せる終端停車場の適例は上野および両国駅である(
第166図および第183図参照)。即ち運転系統の一部分が終端をなせる停車場である。
終端線が通過線に対する位置および本屋の線路に対する位置等によって種々の配線が得られる。
この場合における長所および短所は(a)の場合と同様である。
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2. 本屋 (p. 158)
大なる終端停車場としての本屋を設計するに当たり特に考慮すべき事項は次の如くである。
(a)乗車客と降車客との出入口を別にすること。
(b)乗車口と降車口との距離あまり遠からざること。
(c)乗車客と降車客に次ぎ急行列車客と地方列車客とを区別すること。
(d)本屋内の見透しを良くすること。
(e)なるべく階段を避けること。
(f)採光および換気法に注意すること。
本屋の位置
本屋の位置は頭端式の場合は線路の方向に直角に設けるのが普通であるが,他の場合は中間停車場と同一の考慮を払うべきである。本屋における作業場所の配置は第
138,139,185,186図の如くである。
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参考文献
(著者・編者の五十音順)
書籍
- 平井喜久松『鉄道』岩波書店,1936年5月15日 第1刷発行,1949年7月15日 第7刷発行
辞典
- 石井忠久,他『福武漢和辞典』福武書店,1991年11月1日 発行,初版
- 岩波書店『広辞苑』〈シャープ電子辞書 PW-9600 収録〉岩波書店,1998-2001年,第5版
(書名の五十音順)
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更新日:2010年12月10日
最終更新:2010年12月10日 07:32