『
鉄道』は
平井喜久松さんの著書で,
岩波書店から1936年(昭和11年)に第1刷が,1949年(昭和24年)に第7刷が発行されました。
このページには「第一編 鉄道線路 第三章 分岐および交叉」を収録。
目次
第一編 鉄道線路 (p. 4)
第三章 分岐および交叉 (p. 73)
§1. 緒言 (p. 73)
1. 分岐および交叉 (p. 73)
imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
1軌道から他の軌道に分れる事を分岐(turn out)と言い,2つの線路が互いに交わっている事を
交叉と言う(第83図)。
2. 分岐および交叉の種類 (p. 73)
§2. 分岐器(ポイントとフログとを組合せたものを言う)(p. 74)
1. 分岐器 (p. 74)
これを大別すると次の4種となる。
- 鈍端ポイント(stub switch)
- 尖端ポイント(split switch or point switch)
- 発条ポイント(spring points)
- 乗越ポイント(continiuous rail points)
鈍端ポイント (p. 74)
鈍端ポイントとは第85図の如く本線軌条の一部を可動とし左右に移動せしむる装置としたもの。本線に車輛を通す場合はBA,B'A'の位置に置き,分岐線より本線に進むか,または分岐線に入る場合にはBC,B'C'の位置にこれを移動せしむるようにした分岐器である。
これは構造簡単であるが脱線しやすき欠点がある。
尖端ポイント (p. 74)
尖端ポイントとは最も普通に用いられるもので,第86図の如く2本の
基本軌条(stock rails)と2本の
尖端軌条(tongue rails or point rails)とからなり,尖端軌条
AB および
A'B'の
B および
B'の部分は基本軌条に密着せるように特殊の形に削られ,
A および
A'を中心として移動して何れの線にも開通せしむることができる。
A および
A'を踵端(heel)と言い,蝶番のような構造となり,自由に尖端軌条が動き得るようになっている。また尖端軌条が滑かに軽く動くために,枕木と軌条との間に鉄製の床鈑を敷き,その上面を磨仕上とする。
尖端軌条は曲線のものがよい場合もあるが,製作困難な事と左右分岐が互いに利用できない欠点があるので,特別の場合の外直線のものが用いられる。
分岐の角度は尖端軌条の長さによって異なってくる。またこれと組合すべきフログと一定の関係があるが,後に述べる事とする(82ページ第22表参照)。
基本軌条と尖端軌条との間隔は第20表の如くである。
尖端軌条の長さが8〜10mもあるものがあるが,これは欧州大陸に相当多数用いられている。
第20表 基本軌条と尖端軌条との間隔 |
尖端軌条の長さ (m)
|
尖端軌条の尖端と基本軌条との間隔即ち動程 (mm)
|
尖端軌条の踵端における基本軌条との間隔 (mm)
|
摘要 |
30kg軌条 |
37kg軌条 |
50kg軌条 |
30kg軌条 |
37kg軌条 |
50kg軌条 |
3,000 |
164 |
— |
— |
133 |
— |
— |
6番分岐 |
3,558 |
162 |
160 |
— |
133 |
133 |
— |
8番分岐 |
4,000 |
— |
— |
160 |
— |
— |
140 |
4,572 |
159 |
157 |
— |
133 |
133 |
— |
10番分岐 |
5,000 |
— |
— |
157 |
— |
— |
140 |
5,486 |
157 |
155 |
— |
133 |
133 |
— |
12番分岐 |
6,000 |
— |
— |
155 |
— |
— |
140 |
6,000 |
— |
153 |
164 |
— |
133 127 |
137 131 |
16番分岐 |
発条ポイント (p. 76)
発条ポイントは尖端ポイントと同一の構造であるが,ただスプリングで常に一定方向M(第86図)に開通せしめ,N 方向からの車輛は尖端軌条を割出して進行するようになったもので,車輛の運行方向が常に一定せる場合(例:石炭船積設備における;キック・バック線の如き)に用うる。我国でも近来諸所に使用せられている。
乗越ポイント (p. 77)
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
乗越ポイントは乗越フログとともにこれを用い,
遷移ポイントとも言い,分岐線に入る場合基本軌条を乗越える構造となったものである(第88,89図)。我国では車輛の入換を行わない安全側線分岐にのみ用うる。この乗越ポイントは車輛が進行できな構造であるが,最近車輛が逆行できるように改造して試験の結果好成績を得たので,不日非常用渡り線等に用いらるるようになるであろう。
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
分岐器はまた列車運転方向からも考えて次の2つに区別される。
- 対向分岐器(facing points):列車運転の方向に向って分岐するもの。
- 背向分岐器(trailing points):列車運転の方向と反対の方向に分岐せるもの(第90図)。
2. フログ(轍叉)(p. 77)
これを大別せば次の4種となる。
- 固定フログ(rigid frog)
- 可動フログ(movable frog)
- 発条フログ(spring frog)
- 乗越フログ(continuous rail frog)
固定フログは最も普通のもので4本の軌条を第91図(a)の如く組立てたものである。この組立方法には種々あるが,最も一般的のものは床鈑とチョックとボルトとを用いものである(第91図 b)。
以上の如く組立てず全体が1個の鋳物でできたものがある。これを
ソリッド・クロッシング(solid crossing)と言う(第92図)。
鼻端軌条の尖端は欠けやすいから理論交叉点K より少し引込め,その高さも翼軌条より低くする。輪縁路は我国有鉄道では46mmとなっている。
可動フログ (p. 78)
前述の固定フログにおいては輪縁路のために軌条が断絶され,特に近来の如くフログ角の小なる場合にはこの断絶する長さが大となり運転上危険であるから,これを除去するために造られたものが可動フログで,軌条は列車の通る方向に常に連接され平滑な運転をする事ができる(第93,94図)。
我国では16番フログおよび
菱形交叉にこれを用い,何れも関連せる軌条(ポイントの尖端軌条等)と同時に動かすようになっている。
発条フログ (p. 79)
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
発条フログは翼軌条がスプリングの作用で鼻端軌条に押し付けられ主要線の方は線路に断絶なく通過できるが,支線の方へ出入りする場合にはその翼軌条を割出して通る事になっているものである(第95図)。
乗越フログ (p. 79)
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
乗越フログは乗越ポイントと共に用うるもので,本線軌条は切断せず分岐線の翼軌条を15mmだけ高くして,本線軌条と組立て車輛が分岐線に入る場合に本線軌条を乗越えるようにしたものである。これは前述の如く安全側線にのみ使用するものである(第88図)。
フログの表し方 (p. 79)
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
フログの表し方は普通フログ角
θの大きさによる。即ち第96図の
l /
d の数を
フログ番号(frog number)と言い,これによって表す。例えば,8番フログと言う事は
l /
d = 8 なることである。θとフログ番号との関係は次式の通りである。
フログ番号 N = l / d = 1/2 cot(1/2
* &theta )
これを表示すれば次の如くなる。
第21表 |
フログ番号 |
フログ角 |
|
フログ番号 |
フログ角 |
4 |
14°15' 00'' |
|
※ 10 |
5°43' 29'' |
5 |
11°25' 16'' |
|
※ 12 |
5°12' 18'' |
※ 6 |
9°31' 39'' |
|
13 |
4°46' 19'' |
7 |
8°10' 16'' |
|
14 |
4°05' 27'' |
※ 8 |
7°09' 10'' |
|
15 |
3°49' 05'' |
9 |
6°21' 35'' |
|
※ 16 |
3°34' 47'' |
第21表に明かなる如くフログ番数の大なる程フログ角は小であって,分岐曲線の半径は大となるから重要線路には大なる番数のものを用うる。我国有鉄道では本線路には10番以上を用うる事に定めている。
フログは一般に直線軌条であるが,最近
曲線フログが用いらるるようになった。これは特別の場合即ち高速度列車または電車運転区間において曲線主本線より分岐する場合で,
曲線分岐器(曲線フログを含む)を使用する甚しく有利と認むる場合に限られている。
第97図は最近飯田町駅構内に敷設せられた曲線ポイントおよび曲線フログの写真である。
3. 護輪器 (p. 81)
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
ポイントおよびフログでは車輪を正しく導きフログを確保するため護輪軌条,床鈑等よりなる
護輪器(guard of frog)を用うる。護輪軌条は長さ3m,両端は漏斗形とし,その開きを80mm以上,輪縁路は38mmと定めている。
その構造は本軌条との間に3個の間隔材(chock)を入れ,ボルトで緊結し,必要な輪縁路を保たせ,床鈑,軌条支材等を用いてボルトで枕木に取付けるものである。
#ref error :画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
分岐器の入口に用うるポイント護輪器の形状は第59図に示す通りである。
4. ポイント,フログ,リードの関係 (p. 82)
分岐の角度即ち尖端軌条の長さとフログ番数およびこれを連接せるリードの曲線半径との間には一定の関係がある。我国有鉄道で使用しているものの関係は次表の如くである。
第22表 |
軌条種別 |
フログ番数
|
尖端軌条の長さ (m)
|
リード軌条半径 (m)
|
記事 |
30kg |
6 |
3,000 |
80.0 |
|
30kg および 37kg |
8 |
3,658 |
107.1 |
片開分岐 |
8 |
〃 |
220.8 |
両開分岐 |
10 |
4,572 |
162.6 |
片開分岐 |
10 |
〃 |
335.4 |
両開分岐 |
12 |
5,486 |
243.2 |
片開分岐 |
12 |
〃 |
501.9 |
両開分岐 |
37kg |
16 |
6,000 |
526.6 |
尖端軌条曲線 可動フログ 片開分岐 |
50kg |
8 |
4,000 |
104.2 |
片開分岐 |
10 |
5,000 |
160.1 |
〃 |
12 |
6,000 |
223.5 |
〃 |
16 |
6,000 |
530.2 |
尖端軌条曲線 可動フログ 片開分岐 |
分岐器およびリードでは普通カントを付けないで,車輛の運行を滑かにするためにスラック(軌間の拡大)を付ける。第99図は10番分岐器のスラック付方の一例である。
ポイントとフログとを組合せたものを分岐器と言うのであるが,狭義の意味で
ポイントのことを分岐器と呼ぶこともある。
5. 脱線装置 (p. 83)
列車あるいは車輛が衝突の虞(おそれ)ある場合または可動橋のある場合等には安全側線を設けてこの危害を未然に防止するのであるが,安全側線を設くる余地なき時は脱線装置を設けて損害の程度を軽減することもある。
この装置には
脱線ポイント(derailing point)と
脱線器(derailer)とがある。前者にはポイントの尖端軌条を1本用うるもの,2本用うるもの等がある(第100図)。後者は第101図の如く軌条上に脱線せしむる金物を載せるようにしたものである。
imageプラグインエラー : 画像を取得できませんでした。しばらく時間を置いてから再度お試しください。
6. 分岐の計算 (p. 84)
分岐の各主要分の計算式は場合に応じて種々異なるが,その主なるものを掲げると次の如くである。
1)記号
r1:リード曲線半径(直線分岐器の場合)
r2:リード曲線半径(曲線分岐器の場合)
G:軌間
I1:直線分岐器の入射角
I2:曲線分岐器の入射角
θ:フログ角
P:尖端軌条長
m:フログ交点より趾端までの長さ
K:直線分岐器の踵端の開き
L:尖端軌条の尖端よりフログ交点までの距離
D:軌道中心間隔
M':渡り線の両フログ交点間の距離
C:渡り線の長さ
r1 = (G - (P
sinI1 + m sinθ )) / (cosI1 -
cosθ )
L = P cosI1 + r1(sinθ
- sinI1) + m cosθ
3)曲線分岐器
現今使用されているものは,第103図の如く直線ポイントの尖端軌条の始終点を通る曲線よりなるポイントおよびフログである。
前2者のリード曲線半径を比較して見ると
r2 / r1
= 1.36(50kg 10番分岐の場合)
となる。即ち曲線分岐器では36%の半径を増大し得ることを示す。
(a)直線分岐器の場合(第104図)
M = (D - G )cosθ -
G ) / sinθ
C = 2L + M
(b)曲線分岐器の場合(第105図)
渡り線は我国では上の形状のものが用いられているが,
曲線分岐器を用いた場合は反向曲線となり第105図の如くなる。
cos α = (2r2
cosI2 - D - G ) / (2r2 -
G )
C = (2r2 - G ) sin α - 2r
sinI2
7. 分岐器の定位 (p. 86)
分岐器は平常はある一定の方向に開通させ,必要の時に限りこれを他の方向に開通させるものである。この一定の位置を定位と言い,他の位置を反位と言う。
§3. ポイント転換装置 (p. 86)
1. 転換器の種類および構造 (p. 86)
分岐器は尖端軌条を左右に動かして任意の方向に車輛を通ずるのであるが,この動かす装置を転換装置(switch stand)と言う。転換器はその動力によって
- 手動式
- 半手動式
- 電気式
の3種に大別する。(1)は人力によるもので最も多く用いらるるもの。(2)は最初人力により後自動的に閉づるもので,これに据替式(set over system)と跳反式(fly back system)との2種がある。(3)は電気的にポイントの開閉および鎖錠を行うものである。電気式は作用完全なので最近漸次増加する傾向があるが,ただ設備費の嵩張む欠点がある(第106図)。
構造によって分類すれば次の如くである。
- 錘付転換器(weighted lever)(第107図)
- ハンドル付ポイント標識(第108図)
- 分岐挺(point lever)(第109図)
以上何れも手動式のものであるが,(2),(3)は半自動式,電気式に併用せらるることもある。
2. 転換器の位置 (p. 88)
普通は分岐する線の側に設くるのが最もよろしい。しかし多数の転換器が一側にのみ集まり識別困難な場合には時々反対側に設ける。また列車あるいは車輛の通過頻繁なる場合には構内適当の箇所に扱所を設け,連動装置または挺集中装置を施し
挺を1箇所に集めて取扱い,その動作を鉄管で各分岐器に伝える方法がある。
3. ポイント標識(point indicator)(p. 89)
ポイントの開通方向を示すものであって色々の形式があるが,我国有鉄道では第110図の如きものを用うる。
参考文献
(著者・編者の五十音順)
書籍
- 平井喜久松『鉄道』岩波書店,1936年5月15日 第1刷発行,1949年7月15日 第7刷発行
辞典
- 岩波書店『広辞苑』〈シャープ電子辞書 PW-9600 収録〉岩波書店,1998-2001年,第5版
(書名の五十音順)
関連ブログ
#bf
コメント
メール
更新日:2010年12月07日
最終更新:2010年12月07日 18:51