「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 葬儀屋と地獄の帝王-14

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sougiya

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ゲーム王国編 第七話
【濃力解放】

 始まりは早かった。
 全くの偶然。たまたま出会った江良井と錨野。
 顔を合わせた瞬間に、それが当たり前であり至極当然ともいうように、お互いに場所も時間も指定したわけでもなく――始まった。
 走り出したのは両者とも同じタイミング。
 勢いを殺さずにそのままぶつかりあう両者。
 二度、三度、四度。肉が肉を打つ音が聞こえ、五度目の音が鳴ってからようやく距離を取るふたり。

「さすが江良井くんだ。あの頃よりも強い」
「……お前もな」
「やれること考えられること全てやった結果さ。『ゲーム脳』奪還に敗れたままで終わるのを由とするほど諦めがいいわけじゃないからね。いつか君に会うため、君と戦うため、君を殺すため、君を見下ろすため、君に勝つために鍛えたのさ」
「俺ごときのためによくもそこまで無駄な労力をかけることだ」
「君だからこそ、ぼくがこれだけの労力をかけるのさ」

 離れた距離を一足でゼロにし、打ち込む掌底。
 反射的に出した手から伝わる衝撃を感じるや否や衝撃が向かう方向へと身体を流す。
 掌底のダメージは逃がした。だが、わずかに遅れて放たれていた蹴りが錨野の右肩を強く打った。
 賞賛すべきはあえて遅らせた攻撃を放った江良井ではなく、攻撃を受けても眉ひとつ動かさずに反撃を試みた錨野の方であろう。今の江良井の攻撃を食らえば下手な都市伝説であれば再起不能になっていたはずだ。
 都市伝説の力で強化された江良井同様、錨野もまた都市伝説の力で何らかの強化をされているのだろうか。

「〈地獄の帝王〉は呼ばないのかい?」
「お前の敵は俺だ。奴の力を借りる必要はない」
「へえ、ぼくはてっきり呼べないのかと思ってたよ。呼べば呼ぶほど寿命を縮める都市伝説――君が己に課した制約は都市伝説の力を十全に使うためではなく、君への身体の負担を減らすためのものだろう?」
「……」
「君の心の器――常人よりも少ないからこそ、常人よりも小さいからこそ、制約を課しているんだろう? 都市伝説に飲まれないために」

 数多の拳を放ち、防ぎながら錨野は笑う。
 江良井は何も答えない。

「あの当時、君の制約は拡大解釈をするために必要なのかと思っていた。雁字搦めに縛りつけ、より強固な力を出せるようにとね。君を知る多くの人間は〈組織〉の連中も含めてそう思ってるはずだ。でもね、制約をつけることで契約者の負担も減ることを知ったのさ。ぼくの都市伝説の場合はそれほどでもないが、君のような次々と新作が出る類のゲーム系都市伝説なら常に最新版も取り入れなければならないだろう?」
「取り入れる必要はないがな」
「だが君は取り入れている。常に最新版にバージョンアップしている。ナンバリング、外伝問わずに新作が出る度に、だ。常人なら、もしくはぼくらなら平気かもしれない。制約をつけざるを得ないにしろ、そこまで強固な――死を絡めるような制約は必要ではないのかもしれない。この『学校町』には多重契約者がごまんといるそうだ。彼らなら余裕だろう。何事もなく、君のようにひとつの都市伝説で多くの能力が使えるだろう。生命力や寿命を削らずに、心の器にヒビひとつ入れることすらなく、特化した能力をね」
「……」
「さて、君はどうだい? エスタークの契約者、江良井卓くん。エスタークを呼び出す度に君の寿命は――生命は、削られていってるんじゃないのか?」

 一、召喚前に二十面体ダイスを投げ、出た目を「ターン数」として敵に宣言
 一、上記の行動を行なわない場合、契約は強制解除
 一、×ターン以内に斃された場合、契約は強制解除
 一、契約が強制解除された場合、契約者は死亡

 彼がエスタークを呼ぶ際にかけた制約。
 自らの生命を賭けることで「飲まれる」ことを防いでいる。
 ただ、これはあくまでも都市伝説を使う際の制約であり、拡大解釈のものとは違う。
 一般的な契約者はエスタークを召喚する――契約者にとって当たり前のたったそれだけのことだが、江良井にとっては制約が必要なのだ。

 一、ゲーム中で捨てられない物は使用不可
 一、同一の道具装備の複数所持は不可
 一、攻撃系の呪文特技は最大で三メートルの範囲内限定
 一、回復系の呪文特技は最大で一メートルの範囲内限定
 一、補助系の呪文特技は最大で二メートルの範囲内限定

 江良井が拡大解釈をした場合、召喚時ほど制限はないが制約が存在する。
 契約者が都市伝説の能力を使用する場合、多くは拡大解釈という形を取る。
 程度の差はあるが、多くの契約者は拡大解釈の時に身体への負担は少ない。――ただ、江良井卓は数少ない悪い意味での例外であった。
 都市伝説の能力を使用するだけで限界を超えている江良井には当然のごとく拡大解釈の場合でも制約が必要になった。
 唯一の救いは都市伝説の使用であるエスタークの召喚に際して生命をかけた制約をかけたおかげで拡大解釈にはそこまで強固な制約は必要なかったことだ。

「君が能力を使用するのは一対多の時くらいかと思うんだがどうかな? ま、君なら数人相手にひとりで戦いそうな気もするけど」
「……この状況は一対一だ」
「その通り、君が都市伝説にかける制約の意味を解説したからといってどうということはない。――でもね」

 錨野が両掌を合わせる。拝むように。

「以前、君との戦いで制約というものを知ったからこそ、ぼくは知れた。ぼくにもできる、とね」

 合わせた掌をゆっくりと開いていく。
 その中心にくるくると回転しながら板状の何かが現れた。
 鉛色に鈍い輝きを放つそれは、江良井にとっては見慣れたものであり、かつて苦戦したものであった。

「バキュラか……」
「ご名答」

 かつてのシューティングゲームで敵キャラとして登場する『バキュラは256発撃ち込むと撃破できる』と噂が流れた。
 縦回転を繰り返し直進する敵キャラはどう足掻いても破壊不可能ではあるのだが、二百五十五発を越える二百五十六発目を撃ち込めば破壊できるとの噂である。
 当時発刊されていた雑誌にも記載されていたために全国的に広まり、挑戦する者が後を絶たなかった。
 公式で否定されるのみならず、インターネット上に実際に挑戦した人々の動画も数多く出回り、実際に不可能との認識は広まってはいるのだが、ゲーム系の都市伝説として広く流布している。
 二百五十六発撃ち込むと撃破できるとは、二百五十五発撃ち込まれても大丈夫ということ。

「前は出して飛ばすだけだった。でも、君の制約を知ったおかげで様々なバリエーションを生み出すことができた」

 合わさっていた掌が離れるにつれ、バキュラも大きくなり回転も激しさを増す。
 肩幅よりも広く開かれた掌の中で回転するそれは、錨野が軽く押し出すと回転をしながら宙に浮いた。

「大きさも自由自在。こんな風に連続で出すことも」

 ぱん、と掌を閉じて軽く開くと大きさの異なるバキュラが最初に出されたものと同じように宙に浮かび、その回転が止まることはない。
 錨野が手を叩くたびに次々にバキュラが形成されていく。
 数はわずか十前後だが、ひとつひとつの大きさが大きく、江良井の姿がほぼ隠れてしまう。

「勿論、射出も速度も自由自在さ!」

 くるくると回転しつつ高速で飛来するバキュラに、江良井はわずかに後方に下がり、助走をつけて走り出す。
 バキュラと地面のわずかな隙間を滑り込むように疾走。

「甘い!」

 その程度のことは当たり前とでもいうように、江良井の疾走にあわせてバキュラを隙間に飛ばす。

「――メラ」

 指先から放たれた火炎の弾丸がバキュラに命中するも飛散する。
 その都市伝説通りだとすると、二百五十六発を撃ち込まねば砕くことはできない。
 新作が出るたびに増える呪文や特技。全てのシリーズを紐解いても二百五十六発を打ち出す特技は存在しない。

「何だ?」

 錨野の位置からは無数のバキュラに隠れてしまい見えないが、江良井の放った火炎の弾丸がバキュラに当たり飛散したことは江良井の唱えた呪文とわずかに散った炎とバキュラに当たった衝撃音で想像がつく。
 だが、一度撃たれて散った炎はすぐに消える。音も一度きりのはずだ。
 それがどうして二度も三度も――否、それ以上に聞こえてくる?

「江良井くん、何をしている?」

 江良井は答えない。
 ただ、放たれては飛散する火炎の揺らめきと衝撃音が答えるのみだ。
 江良井の放つ魔法はゲームの通り、「呪文を唱える」という行為なしでは決して発動しない――はずだ。
 連続で唱えることはできるかもしれない。だが、それもそう長く続くはずがない。都市伝説で強化された心肺機能があったとしてもだ。

「何をしている!」

 ぱん、と掌を強く叩くと火炎が撃ち込まれているバキュラを除き、無数のバキュラが消えた。
 江良井の指先からは炎の弾が絶え間なく撃ち出されている。
 小声で唱えている様子も新たな能力を使っている様子もない。
 二百五十六発撃ち込まれたのだろう、残っていたバキュラが消滅して初めて江良井は右手を下ろした。

「……何をした?」
「使う、エルフの飲み薬」

 きらきらと身体が光り、呪文によって失われた魔法力の補充が終えた江良井は懐からひとつの機器――mp3プレイヤーを取り出した。

「まさか……」
「そのまさかだ」

 パソコンに自らの声――呪文を取り込み、呪文と呪文のわずかな空白を消す作業を行なった上でリピート再生。
 もしかしたら二百五十六発分、呪文を繋げたのかもしれない。
 声は江良井のもの。使う魔力も江良井のもの。ならば魔法が発動しない道理はない。

「お前と対するにあたって、一番の難関はバキュラだった。知っての通り、前は苦汁を舐めさせられたからな」

 だから用意した。
 錨野蝶助が敵対した日に。

「そんな破り方が……?」

 錨野からしてみればわずかな間。
 しかし、江良井にしてみればその間は隙以外の何物でもなかった。
 まさに一瞬で間合いを詰め、がら空きの胸元に一撃。

「……くっ……」

 わずかに後方へそれたおかげで致命傷とはならなかったが、次の行動に反応できる余裕はない。
 それを見逃すほど江良井も甘くはなかった。
 次々に打ち込まれる連撃。
 骨は折られ、肉が抉られる。
 錨野が死を覚悟した瞬間、江良井の追撃が止まった。

「……?」

 かつて、錨野は江良井に言った。
 敵と認識した時点で、老若男女問わず言葉通り赤子でも長年付き合ってきた無二の親友でもこの世にたったひとりの親兄弟でも一切躊躇せず懊悩せず顔色ひとつ変えずに殺せる、と。
 とどめを刺すのに躊躇うはずもない。はっきりと敵対宣言をした以上なおさらだ。
 無論、江良井もとどめを刺すつもりだったし仮に錨野が土下座をしても殺していただろう。
 江良井の視線は錨野を越え、背後に注がれていた。
 錨野の背後――そこには土管が生えていた。

「イイイイイイイイヤヤヤヤッフウウウウウウウウウ!!」

 何の前触れもなく突如生えてきた土管。
 奇声と共に現れたのは――否、飛び出てきたのは。

「イツミー! メールィオオゥ!! マンマミーヤ! イヤッハー!」

 ――バカだった。


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