「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 葬儀屋と地獄の帝王-13

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sougiya

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ゲーム王国編 第六話
【欠戦直前】

 横たわる男と、傍らに立つ黒服は、高校生らしき少年と人の顔をした犬と出遭った。
 黒服――江良井が何か言うよりも早く少年は走り出していた。
 すでに事切れている至村の元ではなく、真っ直ぐに江良井の元へ。

「バカ、早まるな!」

『人面犬』の制止も聞かず、江良井へ走り出した少年の胸中を数字にするならば、八割が恐怖であり、残り二割が正義感であろう。
 恐怖と対面した時、人が取る選択肢は単純に分けるとふたつ。
 逃げるか、立ち向かうか。
 江良井へと走り出した少年の行動は恐怖へと立ち向かう姿そのものと見える。だが、実際に少年の取った選択肢は逃げである。
 恐怖で何も見えなくなり、直線上にいた江良井の元へ走り出した――ただそれだけのこと。

「落ち着け」
「ぁ……あ……ああ……」
「この男はすでに――」

 常々聞いていた黒服の話。
 目的のためなら殺人すら厭わない連中――過激派。
 殺し屠る者が纏う黒服と、葬り弔う者が纏う黒服。同じ色ではあるが全く異なる色。
 少年の目には、江良井の着る黒服は同じ色に映っていたのだろうか。

「う……あ……あああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」

 江良井の言葉は耳に入らず、拳を握り、殴りかかろうとする少年。

「俺が来た時には死んでいた――」

 恐怖に駆られ走り出す少年に江良井の言葉は届かない。
 都市伝説『人面犬』との契約により自らの基本性能も底上げされているのであろう右拳も、また。
 今までどれだけの都市伝説との戦闘をこなしてきたのか。
 ――それまで積み重ねてきた経験も虚しく。

 ただの一撃。

 諦念の表情を浮かべ振り下ろした手刀により、少年の首はころりとアスファルトに転がった。

「くそったれ……」

 契約者と都市伝説との繋がりが強ければ強いほど、能力はより強固なものになる。
 反面、結びつきが強さければ強いほど運命を共にする確率も高くなる。
 少年と『人面犬』の間の繋がりがどれほどのものだったのか――『人面犬』は幾つもの光の玉となり、その場から消え去った。

 死因不明の中年男性と、首と胴が離れた少年。
 この場に残る遺体はふたつ。
 立っている黒服はひとり。
 首の無い死体を優しく寝かせ、江良井は立ち去った。
 江良井は振り返らない。胸中を表すように。

◆  □  ◆  □  ◆

「新居が死んで至村も死んだ。今日でちょうど四十九日だ」

 錨野の言葉に、集まった面々は言葉がない。
 ただ眼を瞑る者、ちらりと錨野を見る者、携帯ゲームを弄ぶ者。
 三者三様ではあるが、錨野も含めて感じられるのは怒りと悲しみ。目には見えない気のようなものが彼ら四人の中に漂っている。

「で、どうする?」
「総攻撃だ」
「どっちに対して?」
「ぼくらの――いいや、ぼくの敵にだ」
「またあいつらが邪魔してきたら?」
「殲滅だ。ぼくらの邪魔をする連中が何であろうと、難であろうと」
「侍には借りがある。侍は俺達がもらうが他はどうでもいい」
「それじゃ忍者は任せてもらおうかな」
「援護に回る」
「すまないが、ぼくはひとりだけ相手させてもらうとするよ」
「ラスボスか」
「……八回逃げて強くなりたいものだけどそうはいかないだろうねえ」
「諦めるべきですね」
「以前の敗因は?」
「ぼくの能力が破られた。あれから改良を重ねはしたが、彼もまた進化しているだろうね」

 三人の顔を見る。
 気負いすぎた様子もなければ気弱になっている様子もない。
 自然体。
 最後の戦いに丁度いいほどのリラックス加減だ。
 これなら彼に届き得る。

「今日ラスボスを倒せば後はエンディングまで一直線か」

 三人の仲間に自分を足して四人。
 まるで一昔前のRPGのようだと苦笑する。

 錨野蝶助。
 嘉藤千也。
 中元浩志。
 高城楓。
 彼ら『ゲーム王国』の面々が最後の戦いに身を投じるまで、残り九時間。

◆  □  ◆  □  ◆

「あれはどうなった?」
「今のところは順調です」
「恐らく今日だ。間に合うか?」
「さすがは〈暗部〉の技術力。ここまで高性能な人型はFナンバーでも無理でしょうね。――と言いたいところですが」
「問題が?」
「都市伝説の魂魄を、都市伝説の意思と記憶である魂と都市伝説を構成する魄とに分離し、魄を結晶化。
 結晶化した魄を注入すると若干の拒否反応はあるものの変質したまま一体化。
 ここまではどこかの〈悪の秘密結社〉なる組織が、〈第三帝国〉の医者の技術を下に行なったこと。
 しかし、変質した人型は暴走状態に陥って使いものにはなりません。
 原因は方法ではなく〈暗部〉の人型であるところに依るものが大きいかと思われます」
「ふむ」
「都市伝説の人間化には構成エネルギーである魄を基盤として人体構成をするわけですが、あえて魂で人型を作成。
 そこに結晶化した魄を人型へ注入。若干の拒否反応が見られましたが、魂を人型に構成した際の不純物――記憶や意識を核として搭載しました。
 能力として見るなら、前回の魂魄を人型に内蔵させた状態よりは三割増での結果が出ています」
「では問題はないということだな」
「完全に定着していないため、通常の契約者でいうところの拡大解釈を十全に行なうと稼働時間は約五二〇秒、九分弱のみです」
「時間に不安があるがいいだろう。早速今夜投入する」
「平時では問題ありませんが知性に若干の不安が」
「暴走状態ではないのだろう? ならば何も問題はない」

 それがどうしたとでも言いたげに。
 自分の頭を指で叩きながら笑う。

「狂っていようがいまいが、A-№0への忠誠以外は何も要らん」
「№103はいかがいたしましょう」
「殺されたから仕方ない。調整しておけ」

 十数分後、集められた黒服達に今夜の人員が伝えられる。

 A-№102。
 A-№104。
 A-№109。

 A-№100を筆頭に集められた、〈組織〉の中でも異端の過激派。
 彼らが江良井と〈ゲーム王国〉の面々と矛を交えるまで残り七時間。

◆  □  ◆  □  ◆

「んで、お前はどうすんだ?」

 学校町南区の繁華街よりも少し外れたところにあるラブホテル、ローペロペコンマ。
 余程の事情がない限り、本来の目的以外で訪れる者は少ない。
 本来の目的ではなく訪れた黒服を前に、ホテルのオーナーである中年の男はにやにやと笑みを隠さない。

「錨野は俺の敵となった」
「だから殺す、か。どこぞの箱庭にいる学生みたいだな」
「阿房。俺はただ静かに暮らしたいだけだ」

 呆れるような父親の言葉に顔色ひとつ変えることなく江良井卓は応じる。
 それが当たり前とでも言うように。
 それこそが、己の生き方だとでも言うように。

「で?」
「で、とは?」
「最終決戦を前に何しに来た?」
「帰宅中の俺を見つけてここまで引っ張って来たのはお前だ、阿房」
「ここは盛り上がるところだと思ってよ。よくあるじゃん、最終決戦前に仲間が集まってよっしゃいくぜ! みたいなノリ。ベタだけどあーゆーのは好きなんだよな。燃えるじゃん?」

 熱が入ったのか何やら語りだし始めた漫画の読み過ぎであろう父親に、隠すことなく溜息をひとつついて江良井は立ち上がる。

「それでよ、今まで戦ってきたライバルっぽい敵がお前を殺すのはこの俺だ的なさあ」

 何気なく目に入ったのが事務所内に置いてあるテレビ。
 関東地方の天気予報が映っている。

「前夜にヒロインと語り合ってたら仲間がニヤニヤしながら覗いてましたってのもよお」

 各地域の天気が映し出される中、唯一映らない地域。

「それぞれ最終調整してますってのも悪かないんだが、仲間全員集合はやっぱり外せねえよなあ」

 違和感を覚えたことがないといえば嘘になる。

「敵側の様子を描くのもまたありだよな」

 気にならなく――気にしなくなったのはいつからか。

「……待てよ、ラッキースケベもありだな!!」
「お前ちょっと黙れ」

 学校町――否、『学校町』。
 誰もが知らずと禁忌としているモノに錨野は触れようとしている。
 その最終的な壁は自分。
 錨野にとって最後に立ち塞がる最大の障害。
 禁忌に触らぬままがいいのかどうか、江良井は考えない。

「行ってくる」

 殺す。
 ただそれだけのために。
 自分の敵を排除する。
 ただそれだけのために。
 目的も理由もなく。

「どこにだ?」

 数多の血が流れる死地へ。

 江良井卓。
 たった独りで。

 戦闘開始まで――残り三十分。


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