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連載 - 鴉―KARAS― -10

【鴉―KARAS― 第十話「今此処に万雷の喝采を、開演の時は来たれり」】


 九郎は爆音と共に目を覚ました。
 時計を見ると既に学校が始まる時間帯。
 まあどうせサボるつもりだったから気にしてはいなかったのだが。

「――――なんだ?おいトト!」

 九郎は横で眠っていたトトを揺すって起こす。

「ふぇ、…………ひぇえ!?」

「おいトト、今の何か解るか!?」

「わ、分かんない!」

 九郎は音の鳴る方の窓のカーテンを開ける。
 もう一度轟音。

「嘘だろ……」

 怪獣大決戦とでもいえばいいのだろうか。
 それともこの世の終わりとでも言えばいいのだろうか。

 海で

 二匹の怪獣が海の真ん中で暴れていた。

 一匹は黒、漆黒の獣。
 周りに幾つもの小さな獣を引き連れている。
 もう一匹は青い、蛇のような姿。

「あれは……“獣”じゃないか、何故こんな極東の片田舎に!?」

「なんなんだあれは……」

「えっと……、うんと、ナイアトラップの中でも戦闘力だけなら最強の個体で……
 あれが本格的に暴れだしたらこの街くらい軽く消し飛んじゃう……」

「おいおいおい一体全体何があったっていうんだよ畜生……
 どうすればいいんだ……」

「ねえ、逃げよう九郎
 流石にあれには勝てないよ……」

 後ろから九郎の肩を掴むトト。
 その手は震えていた。

「そうだよ、他人なんてどうでもいいじゃん!
 私は嫌だよ、死にたくない!あれには私達じゃ勝てない!
 やるにしたって準備が足りなさすぎる!」

「いや、駄目だろ」

「なんで」

「ここで俺たちが行かなきゃもっと沢山の人が死ぬ」

 九郎は明日真の携帯に電話をかける。

「待てっ!九郎、死ぬかもしれないんだぞ!」

「死ぬことは怖くない、俺は俺の守りたいものを守れないことが怖いんだ
 お前を、この街を、俺を取り巻くものの全てを
 ……明日さん、あれも邪神の類だそうです
 え?避難誘導の手配はもう終わってる?
 これからちょっと倒してくる?」

 通話終了。

「上には上が居た……(馬鹿の)」

「成程……COOLだぜあのおっさん」

「ちょ、九郎。本当に行くの!?」

「勿論!ついてこいトト!」

「……はいはい」

 九郎の眼の下に漆黒の紋様が現れる。
 それと同時に旋風が彼の身体を包み、あっという間に鴉の鎧を纏った戦士に彼は変身した。

「空戦形態!」

 トトをお姫様抱っこで抱え飛び出す九郎。
 彼の叫び声と同時に彼の鎧は彼の肉体ごと戦闘機のような姿へと変形する。

「あれ、こんなタイプだったっけ」

「普段のやつは戦闘機動に向かないから変えた」

「嘘だろ……そんなことできるのかよ」

 それと同時にコクピットに収まるトト。
 まだ朝の空気が冷たい蒼空に一羽、漆黒の鳥が飛び立つ。

「おい九郎、さっきは気づかなかったが街が燃えているぞ」

 遥か上空から街を見下ろすといくつもの煙があがっている。

「え?」

「どうやら既に何かが暴れた後らしいな」

「なんてこったい……あれは?」

 そんな中、九郎は視界の中に知り合いの姿を見つける。

「どうした?」

「セージじゃないか、この前の遊園地の時のお姉さんと話してる。なにやってるんだあいつ?」

「気になるね、少し話を聞いてみようか」

 戦闘機形態を解除して二人は地面に降り立つ。
 そして極力静かにセージの側に近寄った。

「本当にありがとうございます!」

 トトの耳にセージの声が入る。
 何かをしてもらったらしい。

「……どういたしまして」

 そういって少女は携帯電話をとりだす。

「任務完了しましたサンジェルマン伯爵」

 トトは驚いた。
 自分を狙う敵の名前だ。
 どうにも怪しい。
 彼女は九郎に何をした?

「ご苦労様です霙さん」

「それではこれより観測・爆破ポイントに移動し、計画の第二フェイズに移行します」

「陛下については残念ですがああなった以上、元に戻る可能性はありません
 私の指示通り、タイミングを見計らってセージ君ごと爆砕して下さい」

 トトと九郎は顔を見合わせる。

「了解しました、金子セージ、クラウディアの両名は必ずや私が始末致します」

「セージ君には治療ついでに私の錬金術で仕掛けを施しておきましたがあれ単体では威力不足ですからね
 あれも哀れな少年だ、父と兄はなまじ力を持っていた故に既に殺され、犯人は母親
 たとえ奇跡が起きた所で彼はもう救われなどしない……」

「あの女性が化身の一体……というのは完全に予想外でしたね」

「ええ、裏をかかれましたが我々の前準備がこれで生きてきます
 それでは健闘を祈りますよ」

 そこで通話は終わる。

「あーあ、それにしても男の子ってなんであんなちょろいかなあ
 ちょっと引くわあ、馬鹿じゃないかしら
 さっさと仕事終わらせてお父さんの所かーえろっと」

 誰に言うとでも無く少女は独り言を呟く。
 やるなら、今だ。

「おい、お前ここで何をやっている?」

「――――――!」

「悪女だねえ、嫌いじゃないよそういうの」

「あなた達は……!?」

「随分物騒なワードが聞こえたけどどういうことだろうなあ?
 俺のクラスメートが爆殺?放っておけねえな、そしてクラウディアを始末ってどういうことだ?
 分からないことが多すぎるぜ」

「暗殺者にしては若い……さしずめ、そう“育てられたタイプ”ってところか
 日本にもこんなえげつないことするヤツが居たなんてね」

 九郎が霙の背中に刃を突きつける。

「くっ……!」

「都合の良い道具風情が何を知っているか解らないが……
 まあとにかく洗いざらい吐いてもらおうか」

 トトはこの時まで、勝利を確信していた。

「ふふ……」

「何を笑っている?」

 しかしそれはもろくも崩れる。

「だっておかしいんですもの」

「何を言っている?」

「あなた達は私を止めることなんて絶対にできない
 だって私には……私を守ってくれる人がいるもの
 私を愛して、私を導いてくれる、お父様が
 あの人が居る限り私は悪くないし、あの人の言うとおりにしていれば私は絶対に安全無事
 それなのに勝ち誇っている貴方達が……おかしくてしょうがないわ」

「とりあえず話す気が無いことは分かった」

 その言葉と同時に九郎が剣を振り上げる。
 刹那、トトの胸に大きな穴が開く。

「へ?」

「まずは一人」

 膨大な量の殺気。
 触れるだけで意識を持っていかれそうな濃密な死の気配。
 振り上げていた腕を九郎は掴まれた。

「―――――――――な!?」

 男が立っていた。
 丁度、霙を守るような立ち位置で。
 何の気配もなく、前触れもなく、殺気が充満したと思ったら既にそこに居た。

「ここに、死はある」

 胸を貫かれたトトと一緒に九郎は力任せに遠くに投げつけられる。

「トト!?」

「大丈夫だ、これくらいすぐに治せる……!それよりなんだあいつは、気配がそもそも存在しなかったぞ!?」

 九郎とトトは声の方を見る。

「少年よ、君はまだ若い。命を粗末にするな」

 艶やかな低音が響き渡る。
 九郎達に背を向けたまま、まるでオペラの主役でもあるかのように男は両手を天高く掲げ、謳う。
 その先からは真紅の雫。
 一羽の猛禽。

「鴉が鷹に敵う道理は無い。そして幸いこちらは君たちを殺す命令は受けていない
 惨めに敗北を受け入れ、何も守り得ぬ無力を噛み締めてこの街から逃げたまえ
 さもなくば貴様らを待つ運命は死あるのみ」

「ふざけるな!友達が殺されるのを見捨てられるか!」

 九郎は剣を構えて真紅のコートを纏ったその男と対峙する。

「やれやれ……良かろう、ならば闘争だ。俺も可愛い娘を守らねばならぬ
 ――――そして、そこの女に俺の娘(オンナ)を侮辱した落とし前をつけさせるとしよう」

 男は振り返る。
 鷹のような鋭い目。

「霙、私の後ろに立て」

「はい」

 少女は男の背後に立つ。

「一歩も動くなよ」

「はい」

「開幕だ、愚かな少年よ。サンジェルマン伯爵私兵部隊“FourCard”の鬼札(ジョーカー)が直々に貴様を殺す
 六文銭を取りに帰るならば猶予をくれてやらぬこともないぞ?」

「――――五枚目!?」

 存在し得ぬ五枚目のカード。
 九郎すら知り得なかったサンジェルマン伯爵の切り札がまさに今この時、誰もが予想し得ぬ形で彼らに牙を剥いた。

【鴉―KARAS― 第十話「今此処に万雷の喝采を、開演の時は来たり」 続】


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