「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-27

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konta

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 永取市東にある商業区、ここは街の西側がベッドタウンとなっているという永取市の土地柄、仕事があらかた終わる深夜になると、ビル等の背の高い建物から人の姿がほとんど消えてしまう。その代わりというように道端や駐車場、家族向けのレストランやカラオケ店などに少々柄の悪い少年少女たちの姿が多く見られるようになっていた。
 そのような少年達が集まる一角へとTさんは歩み寄っていった。
 気兼ね無く、道を尋ねるかのような気軽さで声をかける。
「少しいいだろうか?」
「あん?」
「誰? あんた」
「誰かこの兄さん知ってるー?」
 誰かの知り合いと思い仲間へと呼び掛ける少年を、Tさんは制した。
「いや、俺はこのグループの成員の知り合いではない」
「あ? じゃあなんなんだよ? 新入希望か?」
 首を傾げた少年にTさんは苦笑して違う、と首を振った。
「情報屋のようなものでな、多少お前たちに訊ねたい事がある」
「情報屋ぁ?」
「そうだ」
 そう言って手土産に持ってきた煙草の箱を渡す。
「……くれんの?」
「ああ、値上がりして喫煙者には大変だろう。皆で分けてくれ」
 とたんに少年の顔が愛想良く笑む。
「気が利くじゃん! ところで情報屋ってこんな携帯もネットもある時代にやっていけんの?」
 態度を軟化させた少年に、Tさんは話を繋げる。
「なんでも情報が手に入るご時世だからこそ、特殊な情報には価値があってな」
「ふーん、でも俺らそんな特殊な情報なんて知らねえぜ?」
 少年がそう言うと、少年の仲間内からからかうような声が上がった。
「お前馬鹿だもんなー」
「るっせえよ!」
 悪態をつきあう少年達の会話の間隙を縫ってTさんは言葉を差し挟んだ。
「構わないさ、欲しいのはお前達が持っている断片。それらを集めて繋いで価値のある情報に加工するのが俺の仕事だ」
「へぇー」
 間延びした言葉を放ち、よく分からないと言う風に首を傾げながら、少年は背後の仲間達を振り返った。
「おーい、なんかこの兄さん、教えて欲しい事があるってよ」
 こちらのやり取りを眺めていた少年達が集まって来る。多少柄は悪くても根は素直なのだろう、土産をもらったのだからその分を報いようとしてくれているのが分かる。
 ……それに情報屋という名乗りが興味を惹いたか。
 珍しい職業名のためか、インパクトがある。彼等の内全員がこの怪しい名乗りを信じているとは流石に思えないが、必要な事を彼等から聞いたらその後情報屋という名乗りが本当かどうかも含めて質問責めにあうかもしれない、そう思いながら、Tさんは集まって来た少年達に訊ねる。
「お前達はこの街の事に詳しいのか? 俺はここに来て日が浅いのだが、東側の方は随分と昼と様子が違うな」
 問いかけには彼等なりの自負をもった頷きが返る。
「ああ、こっち側、商業区の辺りは夜は静かになるけど、だからこそ俺達みてえなのは溜まり場にすんだよ」
「そうなのか」
「うん、あんまり騒いでっと警察とか来てうざいけどねー」
「ばっか、んなの来ても裏道通って逃げちまえば捕まんねぇって」
「お前は足がおっせーから無理だよ」
 一人がからかい、そこから笑いが生まれる。
 話を聞く相手の選択はひとまず間違ってはいなかったか……。
 そう思いながらTさんは本命の問いを重ねた。
「この街で誰も住んでいなかったり、廃棄されている筈の建物で人影がチラついたり、何らかの怪しい動きがあったりした。という都市伝説めいた話を聞いた、あるいは見たりした事はないか? 気のせいだろうと構わない、全て聞かせてくれ」


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 Tさんが徹心のおっちゃんに仕事を頼まれて出かけていってから数時間後、ひと眠りして体力回復に努めた俺やリカちゃんやフィラちゃんは、千勢姉ちゃんの先導で徹心のおっちゃんが持たせた封筒を携えて永取市西にある住宅地、そこにある随分と立派な家に来ていた。
「ここがこの街の有力者の邸宅なのかしら?」
 傷をほとんど回復させたフィラちゃんが電子ロック完備なブルジョワ臭漂う白塗りの門を前にして言う。
「そうなるな。そして都市伝説の事についても知っている人物でもある」
 答えた千勢姉ちゃんは、ケウの毛をグルグル巻きにした≪壇ノ浦に没した宝剣≫を担ぎ直して呼び鈴を押した。インターフォンに徹心のおっちゃんの使いでやって来た旨を告げる。
 ケウはエレナっていう鉄柱の姉ちゃんの攻撃で地面に俺とリカちゃんを庇いながら落下した時、ちょっと体を痛めたようで、今は療養している。夕方になるまでには≪組織≫から盗ってきた薬を使って治すって徹心のおっちゃんが言ってたから大丈夫だとは思うけど、やっぱり気になる。俺の為に怪我したんだもんなー。
 宝剣に巻かれている毛を見ながらため息をついていると、千勢姉ちゃんが励ますようにリカちゃんごと俺の頭を軽く叩いた。
「気にするなよ舞。ケウはそんなに脆弱ではない」
「お、おう」
 よく気付くなぁと思っているうちに、白塗りの門が開かれた。
「ようこそいらっしゃいました」
 そう言って家の中から迎えに出てきたのは、いかにも執事っぽい黒スーツにオールバックのじいちゃんだった。
「鶴見と会いたい。通せ」
「かしこまりました」
「千勢、あなたもう少し言葉を」
「気にするな、旧知だ」
 そうフィラちゃんに言って、千勢姉ちゃんは執事なじいちゃんに笑いかける。
「随分と歳を食ったな、もう立派な老僕じゃないか栗田」
「貴方はお変わりないようで、千勢さん」
「いつだって可憐だろう?」
「ははは御冗談を」
「おお、徹心のおっちゃんより言う事ズバッと言うタイプだ」
「あなたも大概よ?」
 フィラちゃんが何か言ってくるけど俺は大人しい方だと思うんだ。
「お姉ちゃんたちはやく追いかけないとおいて行かれちゃうの」
 リカちゃんが前方を示す。栗田とかいう執事のじいちゃんと千勢姉ちゃんはもう家の敷地内に入っていた。
「おっといけね」
 執事っぽいじいちゃんはマジものの執事だったみたいで、ものすごく丁寧に家の中に案内してくれた。
 これまた立派な応接室に通される。
「う、わ……なんだこの徹心のおっちゃんのとこもそうだけど雰囲気がすげえな! 出来る人間の部屋って感じがするぜ!」
「まったくだ。まあこの家の家長の鶴見は元大地主、この街一帯の土地持ちだった人間で、先代と先々代とで三代、この街の発展に尽くしてきた名士だからな。この街を流れる川の治水の指揮は今の家長が執っていた筈だ。――そうだな?」
「そう褒められても何もでないぞ?」
 そう言いながら扉を開けて奥の部屋から出てきたのは、カジュアルな服を着た恰幅の良い、気のよさそうなじいちゃんだった。このじいちゃんが鶴見って人なんだと思う。
「まあそう釣れない事を言うな。今回はその力を当てにしてきたのだからな。
 お前が持っている、この街の公権力に対する影響力が必要なんだ」
「地主がかつて持っていた影響力なんてものはどんどんなくなっているんだがな、そうありがたがる程のものでもないぞ? 千勢」
 鶴見のじいちゃんは苦笑で言った。
「それでもこの街の名士として声価が定まっているお前になら口利きが出来るはずだ。動いてもらうぞ? 鶴見。無駄な人死には出したくはないだろう?」
「……どういう事だ?」
 鶴見のじいちゃんの表情が険しくなった。
 だから、と言って、千勢姉ちゃんが言葉を重ねる。
「以前、お前がもういくらか若かった頃にこの街で起こった事が再び起ころうとしている。今度はもっと直接的な破壊を伴ってだ」
 鶴見のじいちゃんが息を飲んで表情を固めた。千勢姉ちゃんは目線を鋭くする。
「もう一度言おう。力を貸せ。何も知らない者を徒に死なせたく無ければな」


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 鶴見のじいちゃんと千勢姉ちゃんの間で通じている会話の中に、よく分からない言葉が出てきた。
 俺は千勢姉ちゃんの方を向いて問いかける。
「千勢姉ちゃん、以前この街で起こった事って?」
「この街に入った時、以前この街で起きた大規模な都市伝説事件を徹心が解決し、そのまま後々の備えの為に異界の入り口をこの街の中に据えたと話したのは憶えているか?」
 ああ、そういやそんな事を聞いたっけなぁ……と思い出していると、鶴見のじいちゃんが昔を思い出す口調で口を開く。
「以前起きた、その都市伝説による事件。それがどこかから人を集めて来ては実験に使用するというものだったのだよ、お嬢さん……」
「≪神智学協会≫、そのロッジの中でも日本最大のものが永取市にあった。そこは研究班の施設だったらしくてな、実験体を欲したんだ。その確保のためにロッジやその関係各所があまりにも大規模に動いたせいで、街のいくらかの場所に≪治験モニター≫という、投薬実験を高報酬で仲介する都市伝説を招く事になった」
 補足するように説明してくれた千勢姉ちゃんの言葉を引き受けて、鶴見のじいちゃんが続ける。
「行方不明者に歯止めがかからなくなってね、当時の私達には原因が分からなかったのだが、そこに現れてロッジも≪治験モニター≫も処理してくれたのが徹心と千勢だった」
「その時の戦闘で研究班を潰せるものと思っていたのだがな、≪治験モニター≫と≪神智学協会≫の末端を相手にしている間にさっさと本体は逃げ帰ってしまっていた。以降、≪神智学協会≫は日本から手を引いていたが、徹心は再び≪神智学協会≫が日本に根を下ろす時、この街の施設跡を足がかりにしないよう、この街に腰を据えたんだ」
「あの時は徹心達が囚われていた人たちを救出するために随分と腐心してくれた。おかげで事態は何とか収拾できたが……今回もまたあの時のような事が起こるのか?」
 物憂げに千勢姉ちゃんを見る鶴見のおっちゃんに、千勢姉ちゃんは答える。
「今回は既に誰かが捕らわれた、と言う事はほとんどない。その代わりに今度は≪神智学協会≫の中枢ないし研究班が保持する戦力全てとぶつからなければならないかもしれん」
「治水の時に使っていたあの雲の竜みたいなもので一気に片を付けられないのか?」
「残念ながらな……」
 鶴見のおっちゃんが「わかった」と諦めたようなため息を吐いた。
「私個人としてはあまりこういう権力の使い方は好まないのだが」
「使うべき時に使わずしてなんの力だ」
「まあ、な」
 そこまで思い切りは良く無いんだ、と苦笑して、おっちゃんは訊ねた。
「さて、私は何をすればいいんだ?」
「この封筒の中に指示は全て書かれている。内容は、こちらが指定する建物や一部地域でどのような現象が観測されようとも決して手を出すなと言う事と、その場所にはこちらが良いと言うまで決して誰も近付けさせないように手配しろという事だ」
「分かった。働きかけて工事中の看板でも立てさせておこう。……何をやるにせよ、気をつけるんだな。今回はそこの娘達も巻き込むのだろう?」
 そう言って鶴見のじいちゃんは俺を見た。
「千勢のように、変に歳をとっている……と言うわけでもなさそうだな。尚更気をつけてもらいたいものだ」
「分かるのですか?」
 フィラちゃんが小さく驚いたように言う。
「私もこの街の為に色々な戦いを経験していたからね。それなりに人を見抜く技術は持っているつもりだよ」
 鶴見のじいちゃんはそう言って笑って見せた。



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