Shadows and Regrets(3)◆S33wK..9RQ





「あ、あ、」

雪子は言葉もままならない。
指を、カインに、ベトベトンに、ゴルベーザに指す。もはや雪子の事は眼中にはなかった。
弱者はこのままの垂れ死ぬ運命なのだから雪子の事もアリスを殺したこともどうでもよかった。 
「時に、槍の戦士よ。提案だ。我の部下になれ」
「何戯言を言っている」
「戯言か?お前にとって我は完全なる利益になるぞ。その鎧の男を倒すのは一人じゃ辛いだろう?」
アシュナードは剣を構える。確かに自分ひとりではゴルベーザを倒すことは困難だ。
もっとも倒す気はなく仲間にしたい気持ちがあったがゴルベーザが自分に攻撃を仕掛けてきたのだ。
セシルには悪いが、これは打ち倒さなければならないだろう。
「……一度だけ協定を結ぼう」
「用心棒って訳か。ククク……いいだろう」
「……話は終わりか?」
ゴルベーザが二人の話に痺れを切らし、言葉を刺す。
「なんだ、お前も早く戦いたいのか。揃いも揃って戦闘狂か。いいだろう、いいだろう!戦おう!さぁ戦の時間だ!」
カインが槍をゴルベーザに向けなおす。
だが、そこに水を差す者がいた。銃声。そしてアシュナードの鎧に凹みができる。
「……なんだ、女。我の楽しみの邪魔するとは」
「はぁ、はぁ、貴方、最低、な男ね、」
もう一発。今度は頬にあたる。右頬から左頬に貫通傷ができる。
血がするすると垂れ、その顔は苦痛に満ちる筈、だったのに、この男はニタニタと笑いながら、それを抜く。この男には苦痛がないのか?
「五月蝿い羽虫はやはり殺しておくべきだな。仇を取る奴に限って身の程を弁えていない馬鹿が多い」
そういうと雪子に近づき、ヴァーグ・カティを振り上げる。
それでも雪子は拳銃をアシュナードに打つのをやめなかった。
雪子は致命傷には至って居ないものの血を流しすぎて、冷静な判断ができなかった。
こいつはアリスを殺した。だからこいつは殺さなければならない。
それだけを考える。たとえ自分が死んでも。
皮肉な事に雪子を助けたアリスの考えや願いは、雪子には伝わらなかった。
「サンダガ!」
「な!?」
アシュナードの持っている剣に落雷が落ちる。
アシュナードはその場に崩れ落ちる。体の言うことがきかなくなった。
「お前の敵は、私だ。……雪子よ。おとなしく、引け。お前はここで死ぬわけにはいかない」
「い、や。」
「召喚魔法も使えぬほどに消耗しているのだ。ここは引け」
「ゴルベーザ!俺がいることを忘れるな!」
カインが槍を持ち、ジャンプする。狙いはゴルベーザ。この高さならあの鎧を突き破ることが出来る。
「ベトベトン、カインに『ヘドロこうげき』だ」
ベトベトンが割って入りカインにヘドロを投げつける。その匂いに溜まらず、攻撃することができなかった。
負けじとカインはまたゴルベーザに攻撃をしかけるが鎧を突き抜けることができず、さらには、この巨体からは予想できない身のこなしでかわされていく。
「ぐぅおおおおお!」
そのときだった。アシュナードが、サンダガを受けたにも関わらず、無理やり立ち上がる。なんだあの男は?
「……ククク、今のは効いたぞ。見たことのない魔法を使うじゃないか。だが我を殺すにはこの倍は必要だ。む?」
気付くと、雪子は脚を引きずりながらゆっくりと移動をしていた。ああ、自分だけ攻撃して、その後は逃げるのか。なるほど、なるほど。
「我を馬鹿にしてるにしか見えないなぁ、女よ!」
「お前の敵は私だ。ブリザガ!」
アシュナードを雪子の所に行かせぬようにブリザガをアシュナードに向けて放つ。
それが悪かったのか、カインの隙を突いてきた。ベトベトンの攻撃を華麗に交わし、ゴルベーザに一閃。
「貰った!」
「ぐっ!ベトベトン!どくどく!」
ゴルベーザの鎧に亀裂が走る。これ以上はやらせたくはないので、ベトベトンにまた攻撃の指示を出す。
しかし、どくどくのよる攻撃は簡単に避けられた。
「甘い攻撃だっ!我には通用せんぞっ!」
そしてブリザガもアシュナードは避けてしまう。結果としてこちらはダメージを受けただけである。
一人では二人を相手するのはやはり難しかった。このままでは雪子を死なせてしまう。
これ以上、主催に反抗する者を減らしたくはない。
「では、女。失せろ」
この距離では今、魔法を撃っても間に合わない。カインの処理だけで精一杯だ。
「……っく!」
そして、アシュナードが剣を下ろし、雪子の頭がかち割れる筈だった。
だが、それはなぜか行われなかった
「……なん、だとっ!?」
「え?」
死を覚悟していた雪子は不思議な感覚だった。目を開けると……
「千枝!」
「雪子!よかった!」
千枝の腕の中に居た。私は、助かったのか。
私が助けたんだけどね、と咲夜が心の中で呟く。しかし疲労が酷い。これ以上は時間をとめるのが難しいだろう。
しかし、なんなのだあれは、化け物じみた男は。幻想郷にあんな妖怪は存在しない。もっとも花の妖怪が本気を出せばあんな感じなのだろうか。
「天誅でござる!」
「悪い奴は僕がやっつけるよ!」
続いて、カービィとキョウがアシュナードに向けて戦闘態勢を取る。
「千枝ちゃん、君には悪いと思うけど、雪子の解放が僕がする。君も戦闘に入ってくれ」
「わかった。雪子、もうちょっとだから頑張れ!」
血塗れの私に、いつも通りの反応をした千枝はきっと内心この私の状態に驚いているのだろうが、何も反応しないのは、きっと千枝の優しさだろう。
その証拠に、千枝の目には涙が溜まっていた。
「動かないで。応急処置だけする」
咲夜から返してもらった(本人は寒いらしいが、結構厚着だと思う。和服ってのはあんなに嵩張ってるのに通気性は良いらしい)コートを破り、包帯代わりにする。
まだ歳もいってない少女に戦闘に混じってもらうのはどうかと自分でも思ったが、ここはそういう場所だ。
あれを倒すには戦闘を経験した者が居なければどうにもならないだろう。
自分は完全なるインドア派で戦闘など殆ど経験したことがなかった。逆に言えば今の状況は自分よりずっと年下の子供に守ってもらっている状況である。
「ゴホゴホ……戦えない自分が歯痒いかしら?」
「……今までそんなこと思ったことないな。今は自分が戦えない事実を痛感しているよ」
咲夜が咳き込みながら自分に問いかけてきた。彼女の能力の時間止めはかなりの体力をつかうらしく、戦闘をしていない状態であってもフラフラとしていた。
……今まで自分はサポートに徹していた訳で、自分は戦闘の前線にいた事は無い。それ以前に戦場や任務先に自らいくことはほぼないと言える。
「大丈夫よ。貴方は貴方だけにしかできないことがある」
「……そうかい」
彼女なりの優しさ、って所なのだろうか。そんな事を言われると余計惨めになった。
今は、彼らの戦いを見守ることしかできない。

「カイン!どういうことだ!?」
「何をそんなに怒る必要があるセシル。ゴルベーザは敵だ。ならば殺す事しかできないじゃないか」
「……セシル」 
セシルはその光景に唖然とした。カインがゴルベーザに槍を向けていた。
ゴルベーザはそんなものはどうでもいいとばかりにセシルの方を見る。
「なぜ、お前は乗った?この下らぬ遊戯に。なんて醜い様だ。苦労してまで手に入れた聖騎士の鎧はどこにいった?もはや、お前は敵だ。私の」
「……兄さん、いやゴルベーザ」
こうなることは当に理解できている。その瞬間がこんなにも早く来るなんてセシルには予想できなかった。
「……お願いがある。無理に叶えて貰わなくてもいい」
暗黒に包まれた鎧から覗き出たのは悲痛な願いだった。
「……僕が、兄さんに負けたら、兄さんは、光の
「言うな。その願いは聞き入られない。私は、お前を打ち倒すしかないのだ。ベトベトン!『どくどく』!」
ベトベトンがカインに攻撃を加えると同時に、ゴルベーザが浮遊し、セシルの懐に向かう。
同じ世界に住まう者たちの二度目の戦いが始まる。

「…………」
「…………」
「……う、そ、で、しょ?」
オタコンと咲夜と雪子の三人はもう体の器官の全てを絶望で埋め尽くした顔でそれを見ていた。
あれは強い。強すぎる。
カービィも倒れ、千枝も息が絶え々え、キョウも体に裂傷だらけである。
「……私も、ごほごほ、戦闘に混じる」
咲夜がそういうとアシュナードの方へ向かう。その体で、無茶だ、なんて言おうと思ったが、いえなかった。
もはやあれを戦うのは自殺するようなものだ。なにせ観覧車の一番高い位置から落ちて無傷なのだ。
だが、それでも送り出すことしかできない。こいつは倒さなければならない、という念が自分を埋め尽くしているのだから。
実に奇妙な心境だ。これから死に行くのに、自分はまだ生きたがっている。
そういえば、昔、日本に神風特攻隊なんていうのが居たらしいけど、その隊に所属していた人たちはどんな気分だったのだろうか。
きっと自分と同じ心境だと思った。咲夜は戦えなくなったら、自分も戦うことにしよう。

「揃いも揃って小物ぞろい!興ざめじゃないかっ!もっと戦火を!もっと狂気を!」
自分を感情を昂ぶらせるものは戦だけ。剣の弾く音。家の燃える熱さ。焼ける肉の匂いと血を血で洗う戦場。
なのに、なんだこれは、
「ぐう……」
「……いった…」
「……はぁ、はぁ」
弱い、弱すぎる。なんなのだこれは。なんなのだこれは。
「弱者だらけじゃないか。あの幽香の様な者はいないのか、我を楽しませるものはいないのか!?」

「ここにいる」

そのときだった。一人の男が唐突に現れる。咲夜はその声を聞いて、またかと思った。

「……ほう、お前もいたのかっ!?『漆黒の騎士』よ?」

その言葉に少しだけ反応をする『漆黒の騎士』。なぜこいつは自分の事を漆黒の騎士だと知っていたのだ?
面白い。ならばここは狂言回しの様に『漆黒の騎士』として振舞おうじゃないか

「……私の名前は『漆黒の騎士』、強者の気配がして、ここに参った」
「……それで、お前は、我を楽しませる、のか。面白い冗談じゃないか」
「閣下、いや、アシュナード。お前は生きてはいけない存在だ。私が、打ち倒す」
「ククク……ガウェインの息子が死んだからお前は叱責の念に噛まれてると思っていたが……」

その言葉を言われ、さらに驚く。なぜこいつがそこまで細かくしっているのだ。
言葉を切り、漆黒の騎士が剣を抜く。

「変わってないじゃないか。言葉より剣を、だから孤独なのだ」

もはやもう疑問は浮かばない。こいつは私の全てを知っている。ならば言葉は不要。剣で語り合おうじゃないか。
漆黒の騎士がアシュナードの懐に飛び込む。

「……ここにいちゃ、危険ね、ごほごほ」

どうやらこの遊園地は乗った者通しで潰しあいしてるらしい。あの黒い鎧(漆黒の騎士じゃないほう。もっとも鎧なんて殆ど無いけど)はわからないけど。
ならば脱出を目指す者がここにいる理由はない。
カービィを頭に載せ、キョウを左肩に、千枝も右肩に、器用に運んでみせる。
オタコンもここにいるのが無意味だとわかったのか雪子を背負って移動する。
「ごめん、咲夜」
「だからくだらない正義感を振り翳すのはやめろっていったのよ。……まぁ貴方の戦いぶりは見事だったわ」
その言葉を聞いた千枝は、――――ありがとう、というと気絶した。千枝は目立った外傷は無く、打撲だけ、といったところか。剣の攻撃を喰らわなかったなんて運が良いらしい。
だが問題はキョウとカービィだ。
二人ともとっくの前に戦闘不能で気絶。カービィは切り傷だらけ。特にキョウは酷い。
左手の指が殆ど欠損しており、右瞼が切れて眼球が見える状態だ。その眼球もどす黒いものが出てきて一生使い物にはならないだろう。
やっとのことで三人をベンチに座らせる。彼らの戦闘が見えない所で少し心配だが、巻き込まれる事は無いはずだ。レーヴァテインでも支給されてないかぎり。
「酷いな……治療道具があれば……」
オタコンが三人の様態を見てつい口に出した。確かにこれは酷い状況だ。
「……おじ、さん……」
そこで黒髪の子、雪子が言う。おじさん、か。まだ自分はわかいほうだと思うけど。
「アリスの、デイパックに、治療道具、が」
「…………人形使いの?」
その彼女がここにいない、そしてあのゴンドラの下に広がる血溜まりがあるということは、彼女は死んだのだろう。
貴重な幻想郷の人材で、脱出の要にもなる人物が死ぬなんて。
それにいつも宴会で飲みあったりする子だ。だからこの訳のわからない『悲しみ』とかいう情が生まれるのだろう。
「アリスのデイパックね。とってくる。オタコンは4人を頼むわ」
とりあえず、自分はあの乳繰り合ってる場所に戻ることにした。

「……毒、か」
「ベトベトン、『ちいさくなる』だ」
カインがベトベトンに槍を振るおうとも、それはことごとく外れる。
それも当然だ。ベトベトンはかなり小さくなっており、槍が刺さらない。
なのに攻撃の威力はそのままで、そこにどくによる攻撃。付け加えてゴルベーザがたったいま命令した『ちいさくなる』により殆ど勝ち目がなくなってしまった。
ならばどうするか。ここは引くしかない。
「……セシル!ここは一旦
「引かせないぞ。『ヘドロ攻撃』」
ゴルベーザはカインに背を向けながらも、セシルと戦っていた。ベトベトンの扱いも慣れてきたのか先ほどよりキレのある攻撃を見せる。
セシルもゴルベーザの魔法を避けながらゴルベーザに剣を振り上げ落とす。
それはゴルベーザも同じこと。
「ゴルベーザ、お願いだ、僕は闇の道へ進んだ。だから、」
「なんだ、まるで自分を倒してくれと言ってるようなものじゃないか」
「違う!」
剣が、魔法が止まる。ベトベトンは相変わらずヘドロ攻撃をカインに続けている。
「ゴルベーザには、自分の道を進んでもらいたいんだ」
「…………まるで、私が自分の道へ進んでいないみたいな言い草じゃないか」
「ああ!ゴルベーザ!君は進んでない!闇の道なんて望んでもいない道に進むなんてことをもうさせたくないっ!!」
暗黒騎士の優しさ。それはなんとも奇妙で、不思議なものなのか。
ふと、気付くとカインはベトベトンに攻撃をやめていた。
そしてベトベトンも主からの命令が無い為、待機していた。
「だから、僕がここで負けたら光の道へ進んでくれ」
遂に出るセシルの本音。カインはここで初めてセシルの本音を聞くことになる。
「…...なんだ。お前は馬鹿か。私はお前に光の道へ進んで欲しいのに、お前は闇の道へ進むというのか。そんな横暴、聞き入れられない」
しかし、ゴルベーザの願いは相反してセシルの望まぬ道になっていた。そしてその逆もしかり。
「でも、僕は負ける気はない……!?」

それは唐突すぎた。

「っく!」
「ククク……楽しいじゃないか。お前、こんなに強かったのか?」
セシルが戦う地点に漆黒の騎士とアシュナードが乱入してきた。
いや、漆黒の騎士が押されてここまできてしまったのだ。
その台詞はこちらのものだ、と漆黒の騎士は言いたかったが、それを言う暇もない。
おかしい、こいつはもう以前のこいつではない。明らかに強くなっている。前からよかった技のキレもかなり良い。
さらにはスキル『再生』の速さ。頬からでていた血はもう既に止まっていた。
「我が拾ってやったというのに、恩を仇で返すか」
「最初から仇を貰っていたのだから当然の事だ」
こいつはまだ私を『漆黒の騎士』として扱ってくる。それが堪らなく『ゼルギウス』は嫌だった。
「俺達の邪魔をするな!」
カインがジャンプをして、アシュナードに向けて槍を向ける。そして落下。
「邪魔をしているのはどっちの方だ?竜騎士よ。協定は取りやめか。ククク。」
後方に下がり、漆黒の騎士の剣が届かない場所に移動する。そしてカインを迎え撃つ構えをした。
「……僕らの邪魔はさせない」
続いて、セシルが漆黒の騎士に向けて言葉を放つ。
「ほう、私とも戦うのか。いいだろう」
「私を忘れるな。セシル、引導を渡してやる」
ゴルベーザもそこに加わる。先ほどより酷くなった戦場を咲夜は遠目で見ていた。

「……どんな状況よ」
そこで行われているのは人外を含む戦い。決して幻想郷では見られない戦いだ。
こんなのに巻き込まれたらひとたまりも無い。
とっととアリスのデイパックを回収してみんなの場所に戻らなければ。
そこから数歩歩いたところに、拉げたゴンドラがあった。そしてそこに広がっているのは血溜まり。
そして、
「……うっ」
それをみた瞬間吐き気を催した。正直、こんなに酷いとは思わなかった。瞳孔が開いたアリスの白濁の目がこちらを見てくる。そして頭部から灰色の何かが飛び出している。
見るに耐えないので、瞼だけを閉ざしてあげた。そのアリスだったものを跨いでいくとデイパックがあった。
しかし挟まっていてデイパックを取り出すのは難しいので、中身だけを取り出すことにする。
「……あ、下着なんて支給されて。つくづく運がないのね貴方」
デイパックからそれがでてきた時につい冗談を言ってしまう。それをすぐに後悔した。
これはアリスじゃない。アリスだったものだ。だから倫理的な問題で、さらに吐き気を催した。
お目当ての緑色の大きめの瓶(メガポーションと書いてある)を取り出す。スコップも入っていたが、引っかかっており、とりだせなかった。
そして、また『アリス』を跨ぐ。それでアリスを見る。その姿は見るに耐えない物の、安らかな顔をしていた。
それをみた瞬間に酷い怒りを覚えた。あの男は笑いながら、虫を踏み潰すように、あいつはアリスを殺した。なんて酷い事をしたのだ。

だが、今の自分では、あの男には勝てないだろう。だが、ちょっとした攻撃ぐらいは出来るはずだ。
足元に拳銃によく似た物が落ちている事に気付いた。それを持ち上げ、近くにある板を売ってみるとそこに釘が生えた。
これで一発やりかえしてやろう。

☆ ☆ ☆

「……遅いな」

自分ではそういうものの、まだ数分もたってはいない。時間の感覚が狂うのは極度の緊張からくるものなのだろうか。
時計を見るとまだ30分ほどしか立って居ないことがわかる。なんて濃い時間を過ごしたのだろうか。
「オタコンさん……千枝は……」
「……ふう。よかった。まだ喋る体力はあるんだね。千枝ちゃんは大丈夫」
「……そう」
喋る元気はあったものの、体を動かす元気はない。
ふとよこを見るとカービィとキョウを挟んで千枝がいた。その寝顔はかなり穏やかなもの。
ああ、よかった。千枝は生きてる。そして私も生きてる。
……でも、アリスは死んだ。アイクさんも死んだ。なんで私は生きてるいるんだ。ただ生き延びただけだ。運よく。
「……う、え、」
「……雪子ちゃん?」
それを考えると涙が堪らなく溢れてきた。だけど、泣いたって何も解決しないことは自分でもわかっている。
いまは千枝が居る。アリスの分も、アイクさんの分も生き延びなければならない。
「……え、うぇ……大丈夫、気にしないで」
「……そう、それならいい」
その涙を見たオタコンは下手に喋りかけるのはやめることにした。
この子は強い子だと千枝から聞いているので。
「(しかし、こちらに向かうのはやはり失敗だった)」
千枝の正義感に負けて遊園地に来たらキョウやカービィ(UMA?)などの心強い対主催に接触できたのはよかった。
だが、こうやって殆どが息絶え絶えの状態に追い込まれてしまった。
「(......冷静な判断ができなくなってるのは、やはり君のせいだよ)」
三人に背を向け、心の中でスネークを呼ぶ。
――――おいおい、なんでもかんでも人のせいにするなよ
そう脳内のスネークが僕に反論する。もっともこの脳内スネークは僕の想像するまやかしであり、スネークが死んだ悲しみを紛らわす為に作ったものだ。
スネーク、君が死んだせいで僕は動揺している。
――――オタコン、お前は俺の事を吸血鬼かなにかと勘違いしてるんじゃないか?正真正銘、俺は人間だ。
次はきっとこうやって反論するんだろうな。しかしなんだ自分は。どうやら思った以上に煩労しているらしい。このままは精神病院行きだ。
――――安心しろ。お前が精神病院に入ることはないぞ。もっと酷い奴を――
「......ん?」
肩を何者かに叩かれる。雪子か?
その時にある重大な事に気付く。それと同時に脳内スネークを強制シャットダウンする。
リボルバー・オセロット。あいつはまだ生きている。
確か光学迷彩を使っていたはずだ。武器はあるものの、まにあわな――――
「がっ!!」
倒れこんでしまう。そういえばこいつの武器はカービィが破壊していた。だから素手なのだろう。痛いのに変わりないが。

「だ、れ、よ、あな、た」 
「フハハハハハハハっ!戦場で壁を向くのは自殺行為だぞっ!」
「……リボルバー・オセロット」

老人、にしてはかなり良い体つきをしている。そして、こいつはオタコンを殴り飛ばしたのだから危険人物にはかわり無い。
丸腰のオタコンを守らなければならない。だが、体が動かない。念じてもタロットカードが現れない。
虫みたいに転げまわるオタコンを見たオセロットは笑う。
自分を先ほど苦渋を味あわせてくれた三人がこんな状態にされてるとは。
遠くを見ると数人が戦闘をしている。あれに突っ込む気は無いほどの酷い戦いだ。
それにこの中では強敵の妙な手品を使うメイドはいない。なんて幸運だ。これは私に新しい秩序をつくれという神からのおぼめしかもしれない。
「武器がないから絞殺しかできないが……死ぬまで.少し楽しもうじゃないか」
「っく……!?、ぐああああああああっ!」
うつ伏せのオタコンにオセロットが乗り、爪を剥がし始めた。
悲鳴が響く。こいつは異常だ。異常すぎる。あの時の足立よりもおかしい。悲鳴を聞いてニヤニヤしている。
このままじゃみんな死ぬ。あの和服美人はまだ戻ってこない。なんてヤバイ状況だ。
「拷問の素晴らしさ、お前は知っているかっ!?」
「っぐぅ!あああああっ!」
二枚目の爪を剥がされる。確かスネークも電撃を流された拷問をされたんじゃなかったか。咲夜が戻ってくるまで、ここは持ちこたえなければならない。
「……ほうっ?その怪我で立ち上がるかっ!?」
「……はぁ、はぁ、そこから、離れてっ!」
やっとのことで立ち上がり、拳銃をその男に向ける。だがその瞬間に酷い頭痛と腹痛に襲われる。
「……うぉえ」
ビチャビチャと音を立てて、自分の足元に黒い液体が広がる。
「そんな体で、私と戦う気かっ!面白いじゃないか。……それでセーフティは外したか?アモは積めたのか?」
「……え」
セーフティ?アモ?拳銃を使う方法なんて雪子には知らない。ただ引き金を引けばいいと思っているだけだった。
それをオセロットは知っていた。この女はただの日本人。咲夜の様に知識は疎いだろう。
だが引き金を引く方法はしっているので、専門用語を出して怯ませる。これで拳銃を使う気にはなれない筈だ。
「ぐぅ……」
オセロットがオタコンの上から移動する。オタコンは痛みのあまり立ち上がることができない。というよりか、オタコンはもう気絶していた。
「が」
「そんな体じゃ、アドレナリンも止まっていないことだ。拷問してもつまらん。死ねっ!」
首をつかまれ締めてくる。息が出来ない。顔が熱くなり破裂する感覚が襲う。
死ぬ。ここで死ぬ。私は

『あのマルクとかいう奴を倒せたら、飯をおごってもらうってのは…どうだ?」』
『是非来なさい。それで私の人形を手土産にしてちゃんと帰りなさい』

いやだ、まだ死ねない。私はアイクさんに食事を奢るのだ。墓に供えるのだ。
まだ幻想郷に遊びにも行ってない。アリスさんの人形を土産に貰ってもいない。
ここは自分にとっての正念場だ。ここで死んでしまったら、千枝もキョウさんもカービィもオタコンさンも死んじゃう。和服美人さんももしかしたら。

「……守、って、」
「ん?なんだっ?」

タロットカードが雪子とオセロットの間に舞い降りる。
そして、それは、自然に、ぐしゃぐしゃに砕けた。ペルソナ使いにとっては完全なイレギュラーが発生した。
「コノハナサクヤ!」
「……!?あの警察官と同じものかっ!?」
コノハナサクヤが現れ、オセロットにアギダインを放つ。

「があああ!熱い、熱いぃぃぃぃっ!」

オセロットがその場で火を振り払う。それをみた雪子はなんて滑稽な姿なんだろうか、と嘲笑した。この炎は簡単には消えないのだ。

「くそ、あがああああああああ!!!」

必死で振り払うも消えることはない。
ここで死ぬわけにはいかない。だが火炎が消えてくれない。なんだ、これは。
こんな子供に自分は殺される?自分が死んだらビックボスはどうなる?
くそ、くそ、くそ、熱い、熱い。熱い、新しい秩序は、あ、? ! !

『子供相手に慢心した結果だ。戦場じゃあ、なにが起こるかわからないことを一番理解してるお前がこんな結果を出すとは。やはりお前は詰めが甘いな』

なんだか、懐かしい声が聞こえた気がする。それは自分の怨敵で、尊敬をする人の。

「がぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!死ねんんんんんんんんあああああああああああ、あ、、あああ、ああああ、」


気がついたら自分の目の前に黒焦げの死体が、あった。
これで、大丈夫。千枝も、キョウさんも、オタコンさんも、カービィちゃんも。
あとはみんなと合流して、この殺し合いを打破して、その後は事件の真犯人を追い詰めて、
アイクさんの墓にオムライスを供えて、幻想郷に、アリスの、人形を…… 



☆ ☆ ☆

「っっっしいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!」
「っく!」

剣の
ぶつかり合う金属音が観覧車の下を埋め尽くす。
ベトベトンがアシュナードにヘドロ攻撃を繰り返し、ゴルベーザはカインも攻撃を弾き返す。
セシルは漆黒の騎士の攻撃を捌きながら、カインを巻き添えにしないように気をくばる。
「暗黒」
「月光」
技と技のぶつかりあい。二人は弾き飛ばされる。
そして弾きとばされた先にいたのは別の敵。
「印付きのお前にとってはここは素晴らしい所なのだろうな」
「お前は私の何倍も楽しい癖に」
漆黒の騎士はいつもつかう『貴殿』や『閣下』をアシュナードには使わない。こいつにはもう敬称など必要ない。
「孤独に身を寄せ、死人の影を追うお前がこの殺し合いで一人になったら望むものはなんだっ!?」
「なにもない。私は全てを打ち倒すのみだっ!」
「ではなぜ今になって己の姿を晒す?隠れ、孤独に、卑怯に、生きてきたお前がっ!?本心はなんだっ!?」
また剣のぶつかる音。それを言って漆黒の騎士に動揺を誘おうと思ったが、まったくといっていいほど反応はしなかった。
「し、ね!」
「そんな温い技じゃ、私を倒すことはできん」
カインが槍を一突き、二突きと、攻撃をする。それをするするとゴルベーザは避ける。
そしてまた攻撃魔法をセシルに放ち、ベトベトンに攻撃を指示する。
「はぁ、はぁ」
それを間一髪で避けたセシルの呼吸がさらに荒くなる。
ここにいるほぼ全員が体力の限界に近づいていた。そう、アシュナード以外は。
「なんだ?、お前ら、スピードが落ちてきたな?」
アシュナードがニヤニヤとしながら言う。
このままでは不味い。アシュナードの一人勝ちになってしまうだろう。
だからこそ皆の攻撃はアシュナードよりになっていった。
もっともアシュナードが殺したい相手はこの場に二人しかいない。漆黒の騎士とゴルベーザだ。
この二人は扱うのが無理だと察する。忠誠を誓わせる前に殺してしまうほうが早い。
カインとセシルは絶対に部下にする。絶対に。
「それで、決めたのか?我の部下になることは? 扱いは悪くはせんぞ?」
「断る」
「お前は今我々が倒す」
「ククク……ならば力ずくに……」
またもや剣をセシルとカインに向ける。
「……なんだ?」
「……私と同じ匂いがする。悲しき、闇の道へ辿る匂いだ。」
ゴルベーザは心底漆黒の騎士に同情した。そして漆黒の騎士もゴルベーザに同情した。兄弟と戦うなんて悲しいことだろう。
「セシルが駄目ならば、お前に光の道へ進んで欲しいな」
ゴルベーザはそういうが、攻撃魔法の準備を整える。こんなことを言っても無駄だとわかっているからだ。
「光への道など生まれたときから閉ざされている」
「奇遇だな、私もだ」
今度は魔法と剣が交差した。
一方、こちらはセシルとカインの戦い。
「おとなしく我の部下になればいいものの……」
「あ、あ、あ、」
カインとセシルは殆ど敗北していた。これではもう戦うことも困難だ。
二人とも武器を地面に落とす。こいつには勝てない。
「ククク……拷問はあまりしたくないのでな。今すぐ、『はい』か『いいえ』で答えろ。我の部下になれ。安心しろ、首輪は瀬多がなんとかする」
その時だった。アシュナードが剣を降ろした。アシュナードはこの行動をあまり重大視していなかった。
それに絶対的な自身があった。この状態で、例えば『一矢報われる』されても、捌くことはできる自身があったのだ。
だが、ここは異世界交わる殺し合いの会場。アシュナードの知らない戦法だってあるのだ。それを失念していたアシュナードは後に後悔することになる。
例えば、十六夜咲夜の『時を操る程度の能力』。

「!?」

声もでない。なにせ急に目の前に女性が現れるのだから。

「一発ぐらい、喰らいなさいよ。あんた殆ど攻撃受け付けないみたいだし」

ピスッ

と発射音。そして悲鳴。

「ぐあああああああああああああああっっっっ」 

咲夜は考えた。幾ら体が強固だとしても弱い部分はある筈だと。眼球ほど体の露出している器官で柔らかい部分はそこしか知らなかった。
余りの痛みに剣を適当に振り回す。だが、アシュナードの左の眼球にはやはり釘が刺さっているので当たることはない。
「セシル!撤退だっ」
「ああっ!」
逃げる機会が与えられたのでセシルとカインはそこから一目散に逃げる。
ゴルベーザもそれが機会だと踏んだのか来た所を戻っていった。
「っっああああああああっ!」
アシュナードも地面を蹴り、遊園地と向こう側を隔てる壁を突き破り、どこかに消えていった。
そしてその場にいるのは、十六夜咲夜と漆黒の騎士のみ。

「……なぜ邪魔をした?」
「あの男に一発きついのをお見舞いしたかっただけよ。でも貴方の戦闘を結果的に邪魔したことは謝るわ。...ごほごほ。」
どうやら時間止めと多用しすぎたみたいだ。また頭痛と吐き気が自分を襲う。だが、今は回復剤があるので、気にしない。
「……約束したとおり、ここで咲夜殿と手合わせをしたいが、二人とも万全の状態ではないので、ここで戦うことは遠慮しておこう」
「素敵なご提案をありがと」
なんだかこの男は紳士的な振る舞いが好きらしい。花の妖怪の男Verといった所か。相手を重んじて騎士道精神ばりばりの戦闘狂を除けばの話だが。
「それで、気になることがあるんだけど」
「なんだ?」
「……貴方、賞品の願いを狙ってるでしょ?」
「……!」
漆黒の騎士はそのことに驚く。だが外面にでることはない。この女性は自分の思っているより頭脳を使うらしい。
「さっきの男との会話を聞くかぎり、そうとしか思えないの。『今頃になって鎧を脱ぐ』とか、だっけ?貴方の事情や生い立ちは知らないけど。」
「……咲夜殿。それは違う」
漆黒の騎士は否定するも、それは違わない事実だ。
「たとえそれを狙ってなくとも、『あわよくば』なんて思ってるのね。可哀想な人。最初から潔く言えばいいじゃないの」
「……なぜ、脱出を目指す咲夜殿が殺し合いを乗った私を諭すのだ?」
「ただ単にぐだぐだ言って、物事に理由をつける人が嫌いなのよ」
――――だから人間は嫌いだ。そう呟くと咲夜は歩み、どこかに消えていく。

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