(有)胡桃沢製作所 made in "naha"

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3章 重箱とライバルとサブマシンガンと

「せんぱーい、一緒にお昼食べましょー」
 昼休み、購買に行こうとすると、柚花がやって来た。
「ちょっと待て、今購買で買ってくるから――」
「あ、大丈夫ですよ、先輩の分もお弁当用意してますから」
「本当か?」
「はいっ!」
「あれっ、でもお前、今日は鞄以外持ってきてないんじゃ……」
「大丈夫です、ちゃんと鞄の中に入れてきましたから」
 ……柚花、その学生鞄に、どうやったら教科書と拳銃と弁当が入るんだ……?
 っと、そういった疑問はとりあえず口に出さないでおく。
「それじゃあ行きましょ」
 そう言って、柚花は俺の腕を引っ張った。
「お、おい、どこに行くんだ?」
 すると、振り返った柚花はニッコリと笑って言った。
「とっても見晴らしのいい場所です!」

「まあ、確かに見晴らしはいいわな……」
 柚花が連れてきた場所は、校舎の屋上だった。
「それじゃあ準備しますね」
 柚花はそう言いつつ、鞄からブルーシートと重箱大の弁当箱を取り出した……って重箱大!?どうやったらあの鞄に重箱が入るんだ!?
「ささ、先輩座ってください」
「あ、ああ……」
 柚花がシートに座って手招きするので、とりあえず疑問は置いておいて座った。
「今日は先輩のために色々用意しちゃいました♪」
「へぇ……」
 そこまで言われて、俺も少し期待してきた。
「じゃーん!」
 柚花は思い切り、重箱の蓋を取った。
「うわっ」
 重箱の中は、店で売ってるようなおせち料理並みの品ばかりだった。
「まず、1の段にはフォアグラのテリーヌにキャビアのブルスケッタ、2の段には伊勢海老と鮪の造り、3の段にはトリュフのキッシュにローストビーフです」
「……」
 俺は絶句した。別に嫌いなものばっかだったからじゃない。あまりにも豪華すぎて、言葉を失ってしまったのだ。
 というか、どう考えてもおせち料理だろ。いや、おせちでもこんな豪勢じゃない。少なくとも、広瀬家ではこんな料理は出てこない。金銭的関係で。
「さ、遠慮せず食べてください」
「そ、それじゃあ、いただきます」
 おっかなびっくりしながらも、箸を(西洋料理なのに箸でいいんだろうか?)使って一口食べた。
「どうですか?」
「う、うまい……」
 いや、食材からして不味いはずはないんだが、それを引いてもうまかった。
「よかったー、今朝早起きした甲斐がありましたー」
「えっ、これ柚花が作ったのか!?」
 俺は正直驚いた。てっきりどこかで買ってきたものかと思っていた。
「そうですよ、3時間も早起きして作ったんですから」
「うわぁ……」
 そう言われると、嬉しいやら恥ずかしいやらで胸がいっぱいになった。
「それにしても、今朝は大変でしたね」
 不意に、柚花が話を持ち出した。
「あれは大変程度で済むのか……?」
 今朝のことを思い出し、今食ったものの味も忘れて、俺はまたグッタリになった。

……遅刻5分前……

「先輩、学園上空に着きましたよ!」
「お、おう……」
 プロペラ音に消えないよう柚花が叫ぶが、俺には返事をする体力すらなかった。
 既にもう、俺はその時からグッタリしていた。今まで乗ったことのないヘリに乗って、完全に酔っていた。
「先輩、着陸する時間がありませんから、これを使います!」
 そう言って、柚花は俺にロープの一端を手渡した。もう一端は兵室の手摺に固く結び付けられている。
「それと、これも着けてください!」
 さらに分厚い皮手袋が手渡された。
「はっ?これでどうする――」
 そう言いかけて、俺は嫌な予感がした。
「まさか……これで?」
「はい、ファストロープで降下します!」
 ファストロープって、俺は『FOXHOUND』の隊員じゃねぇぞ!
「ちょっ、マジかよ……って、うおっ!」
 風に煽られて踏み外したと理解した時には、既に俺の足は空中に浮いていた。。
「のわぁぁぁぁぁぁぁ……!」
 そのまま俺は、地上10mの高さから急速落下していた。
「せんぱーい、そんなに急ぐと、本当に落ちちゃいますよぉ!」
 はるか上空から、そんな柚花の声が聞こえてきた。
 ……遅すぎるっつーの……。

「それにしても先輩、あれだけ早く降下できる技術があるなら、どこかの軍隊に仕官できますよ」
「いらねぇ……そんな技術」
 確かに柚花、お前の言う通りだよ。今まで普通の学生やってて、いきなり10mの高さから落ちて死ななきゃすげぇよ。
 俺は思い出したかのように空を見上げた。すると
バララララララ……!
「なっ!」
 俺は唖然とした。
 ちょうど俺達の真上に、ヘリコプターがホバリングしていた。今朝のハインドDのように武装はしていないが、明らかに民間機じゃない。
「カサッカ!?」
 隣で柚花も立ち上がった。
「カサッカ?」
「ロシア・カモフ設計局の輸送ヘリです」
 とか言ってる間に、そのカサッカからロープが垂れてきた。
「まさか、ファストロープ!?」
 驚いているうちに、ヘリから人が降下してきた。
「うわっ……」
 降下してきたのは、野戦服を着てスカルキャップを被った奴等だった。おまけに、今朝柚花が見せた『AK74』を持っていたりもした。もちろん銃口はこっちに向いている。
 ……これは、あれですか?元GR○の大佐が指揮する部隊ですか?
「これは……やばい状況だよな……?」
「大丈夫です、先輩は私が守ります!」
 そう言って、柚花は動いた。
ガンガンガンガンガンガンッ!
「なっ……!」
 一瞬の出来事だった。
 柚花は鞄からリボルバー拳銃を出したかと思うと、ものすごい早撃ちで武装した6人を撃ち抜いた。某共産国の特殊部隊もびっくりの早撃ちだった。
「おい、人殺しはまずいだろっ!」
 というか、発砲自体まずいんだが……。
「平気です、全部模擬弾ですから」
「模擬弾?」
 よく見ると、撃たれた奴等はどこも出血していなかった。
「さすがね、柚花」
「へっ?」
 声のした上を見ると、この学園の制服を着た女子がファストロープで降下してきた。
「洋子さん!」
「知り合いなのか?」
「はい、『菊池財閥』の次期会長です」
「もしかして、2年F組の菊池か……?」
「そうです」
 確かに、F組に金持ちの令嬢がいるとは聞いていたが……。
「で、こいつ等は……?」
「洋子さんの私兵です」
 私兵?日本国内で、私兵?
「そう、そういうことよ」
 降下してきた菊池洋子は、ごくごく普通の女子学生だった……マシンガンさえ持ってなければ。
「えっと……菊池さん……?」
「洋子で結構よ」
 そう言って、洋子は俺に向かって微笑んだ。
「洋子さん、これは一体どういうことですか……?」
 柚花は怪訝そうな顔で洋子を見た。
「ふふっ、柚花に彼氏が出来たって聞いたから、見に来たのよ」
「ななっ……!」
 柚花の顔が真っ赤になった。
「先輩を見に来たって……洋子さん悪趣味ですよっ!」
 トマトのように真っ赤になりながら、柚花は洋子に抗議した。
 いや、悪趣味っつーか、そのためにわざわざヘリに乗って、屋上まで来たのかよ……。
「なーに赤くなってるのよ」
 洋子はケラケラ笑うと、また俺に視線を移した。
「……へぇ」
「な、何か……?」
「……いい……」
「は?」
 何がいいんだと聞く前に、洋子は俺の手を握り締めた。
「幸一、あたしと付き合って」
「ええっ!」
 俺が驚くより先に、柚花が声を上げて驚いた。
「よ、洋子さんダメですよっ!先輩は私と付き合ってるんですから!」
「いいじゃないの、譲りなさいよ」
「絶対に先輩は渡しません!」
 柚花がそう言うと、洋子はマシンガンの銃口を柚花に向けた……ってなんで!?
「なら、力づくで手に入れるわ」
パパパパパッ!
 平気で洋子は柚花に向かって発砲した。
「っ!」
 柚花はギリギリで銃弾を避けると、鞄から昨日とは別の拳銃を取り出した……って一体何挺入ってんだよっ!?
「さすがね、柚花。私の『スコーピオン』を避けるなんて」
「言ったはずです、先輩は渡さないと」
 いつもと違う、柚花の声がした。
ガンッ!
 今度は柚花が発砲した。しかし洋子も予想していたのだろう。いとも簡単に避けてしまった。
 的を失った弾丸は、そのまま後ろのフェンスを粉砕した……って威力あり過ぎっ!
「ちょっと待て柚花!そんなの当たったら死んじまうだろっ!」
「先輩を狙う人は、洋子さんだろうと容赦しません……」
 怖いくらい落ち着いた声で柚花は言った。
「お、おい……」
「私と先輩の仲を裂こうとするなら、この『デザートイーグル』で消し飛ばします」
「ふふっ、そうでなくっちゃ」
パパパパパパッ!
 笑いながら、さらに洋子がマシンガンを撃ってきた。
ガンガンガンッ!
 それを避けながら柚花も応射する。
「うわぁ……」
 屋上は目も当てられない惨状になっていた。ここは本当に、治安大国日本なのかという状態だった。
 つまり、分かりやすく説明すると
① 日本国内の、しかも学園の敷地内で銃声(数え切れないほど)
② 屋上の各所に銃弾が当たり、フェンスやタイルがボロボロ
③ さらに流れ弾でも飛んできたのか、校庭から悲鳴が
「……そろそろこっちもやばい……」
 マジでやばかった。転がっていた奴等(洋子の私兵)を回収して安全なところに隠れていたが、二人があんまり移動しながら撃ち合うから、隠れる場所自体がなくなってしまった。
 その時だった、飛び出した柚花に、洋子の銃口が向いた。
 驚く柚花と、ニヤッと笑う洋子の顔を見て
「っ!」
 俺は咄嗟に飛び出した。どうしてだか分からないが、気がついたらそうしていた。
 飛び出した俺を中心に、柚花と、洋子の銃口が一直線に結ばさった。
パパパッ!
 ――まずはこめかみに痛みが走った。その後に銃声が聞こえた。聞こえたはいいが、そのまま俺は通り過ぎた銃弾に引っ張られるように、後ろ向きに倒れた。ついでに、洋子が驚愕した顔も見えた。
「先輩っ!」
 柚花の悲鳴のような声も聞こえるが、返事が出来ない。というより、声が出なかった。おまけに、だんだん意識が薄らいできた。まるで死に際みたいな感じだ。
「(あ……やばいかな、俺……)」
そう思いつつも、そこで俺の意識は途切れた。

「……ぱい……せ…ぱい……」
 何か、遠くの方で声が聞こえてくる。妙に聞き覚えのある声だった。
「…んぱ…………せん…い……」
 だんだん、声が大きくなってるような気もする。
「せん…い……先輩っ!」
「うおっ!」
 まずは柚花の顔が目に映った。涙目になりながら、こっちを見ていた。
 辺りを見渡すと、そこは屋上ではなく保健室だった。
「大丈夫ですかっ!?」
「あ、ああ……大丈夫、だと思う」
 軽く頭を振ってみた。少し痛いが、耐えられなくはない。
「良かったぁ!」
ガバッ
「ぐわっ」
 柚花が抱きついて、俺の肺にあった空気を全部搾り出した。
「本当に心配したんですよ!」
ギュウゥゥゥゥ……!
「……!」
 さらに強く抱きつくから、もう声すら出ない。恐らく今の俺は、新鮮な酸素を求めて、金魚のように口をパクパクさせているのだろう。
「ゆ、柚花っ、死ぬ、これは死ぬ!」
「あっ……」
 渾身の気力で声を出すと、ようやく柚花が離れた。
「えっと……あれからどのくらい経った?」
「もう放課後です」
「そっか……」
 すると、俺はかれこれ3時間は気絶してたことになるな。
「ほんと、ビックリしちゃったわよ」
 カーテンで区切られた向こうから、声がした。
「洋子、か……?」
「ピンポーン」
 カーテンが開けられると、洋子もベッドの上で半身を上げていた。
「何でお前まで寝てるんだ……?」
「それは柚花に撃たれたからよ」
 洋子は肩をすくめ、柚花の方を見た。
「まったく……幸一はこめかみ掠っただけなのに、柚花ったら完全に錯乱しちゃって「先輩の仇!」とか言って撃ってきたのよ。おかげで右足の肉を持ってかれちゃったわ」
 そう言って、右足の方の布団を捲った。太ももの辺りに包帯がグルグル巻きになっていた。
「大丈夫か?」
「何とかね。でも、今度からアンタが危ない目に遭うのはやめてね。じゃないと、また柚花が暴走しちゃうから」
「ちょっ、洋子さん!」
 また柚花の顔が真っ赤になるが、洋子はお構いなしにケラケラ笑った。そんな二人を見て、俺も少し笑えてしまう。
「先輩まで笑わないで下さいよぉ!」
「わりぃわりぃ」
 ある程度落ち着くと、柚花が真剣な顔で洋子に向かい合った。
「洋子さん、今度先輩を狙ったりしたら、今度は本当に眉間を撃ち抜きますから」
「わかったわよ」
「へっ?」
 洋子があっさり承諾すると思ってなかったのか、柚花の目が点になった。
「あたしだって最初から本気じゃなかったわよ。けど、柚花があまりにも本気になるから面白くって」
 柚花は赤面した。
「ふふっ、ほんと、精進が足りないわね、柚花」
「よ、洋子さーん!」
 二人が口論している(洋子が柚花をあしらってる)中、俺の真っ赤になっていた顔が急激に青くなったのを感じだ。
 三人とも無事であったのは良かったが、屋上の惨劇をどう学園側に説明すりゃあいいんだろう……。